ことばよりも【短編集】 (ページ19)

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機嫌良さそうに私の右手を両手で捕らえたまま、あまりにも自然に彼はそう言った。自然すぎて、なんのこっちゃと私はよく理解出来ないでいたのだが、「あれ？これ言っちゃ駄目なやつだったかな？えへへ〜まぁいっか」とゆらゆら揺れるその目が、蕩けきっていて。こんな状態で嘘が言えたのなら、俳優になるべきだ。

　私が黙りこくっているのに気がつくと、まふまふは「Aちゃん？」と私の顔を覗き込んだ。自分の表情が、顔色がどうなっているかわからなくて、平静を保てている自信がなかったので、バッと顔を逸らす。

「なんで隠すの……」

「いや、ほんと、良くないって。絶対後悔するから。今日のことはもう忘れよう、お開きにしよう」

「忘れなくていいのに〜。元々いつか、言おうとしてたし」

「なん、いや、待って」

「よくないことなの？」

「待ってって！」

　隣に座っていたの、間違いだったかもしれない。にじり寄られても片腕を人質に取られているから逃げ出すことも出来ず、少量とはいえ酔っていて上手く考えられない頭では何も出来ない。

「こっち向いてよ」

「駄目、離して」

「ねぇ、本当に帰っちゃうの？」

　熱に浮かされた瞳に射抜かれて、動けない。

　二の句を告げることが出来ずに、人前で安易に酒を飲まないようにといつ言い聞かせるべきか、なんて現実逃避も、きっと長くは保たないだろう。