. ページ18
ふにゃふにゃぐでぐで。そんな音が似合うナメクジのような動きで駄々を捏ねられても、私に出来ることはこれくらいだし、こいつに出来ることはもっと無い。
前後すら不覚の彼をひとりきりにして、戸締りもしないまま時間が過ぎてもし何かあったとしたらこちらとしても寝覚めが悪いのだ。別にこんなお母さんみたいなことをしに来たわけではないのに。
机の上が粗方片付いた頃、チョコレート菓子の空き箱に伸ばそうとした手が、そっと握られた。
「帰っちゃうの？」
アルコールから来る火照りのせいか、薄く涙の膜が張った瞳が上目遣いがちにこちらを見る。部屋の温度も相まってか熱いそれをすぐに振りほどけず、ふいとパッケージの文字に視線を逸らしてしまう。
「……帰るよ、終電無くなっちゃうし」
「いいじゃん、帰らなくて……泊まっていきなよ」
「一晩中酔っ払いを構うの嫌なんだけど」
向こうから離してくれるように、突き放すように吐き捨てても、まふまふは「ふふ、ふふ……」と不敵に笑って私の腕を引き寄せて指の腹をふにふにと押して遊んでいる。長いこと楽器をやっている彼のそれとは違って、柔らかいのが面白いのだろうか。
「ゆび」
「指ですけど……」
「うん、ゆび。ふふ……んふふ……」
「……楽しいの？」
「たのしい」
どこが。酔っ払いの考えていることはわからない。
このままズルズル流されると、時間とか関係なく本当に帰れなくなってしまうので、苦言を呈するために口を開こうとした、それより先。
「Aちゃんといると、たのしいよ」
私の指と絡めた自分の手を見たまま、恍惚といった表情で彼はそう言った。
「……それは、どうも」
「あ〜、さては照れてるな？」
「そんなことない」
「かわい〜。んふふ、ボクさぁ、ずっとAちゃんのこと好きだったんだよねぇ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こより | 作成日時：2023年3月1日 21時
