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「まあ、そんなわけで。本当はこういうのもあんまり良くないんだけどね。だから……そうだな、口止めくらいに思ってもらえれば」
「口止め？」
「ふわっちのこと。隠す気はないんだけど、下手に噂立てられても困るから、あんまり広めないでおいて」
「生徒を買収するのもどうかと思いますけど」
痛い所を突かれたようで「う、」とたじろいでいたが、たぶんそう言ってくれたのも、私に無駄な罪悪感を抱かせないためなのだろう。どこまでも優しい人なんだな。
「……それに、心配しなくても私、そういうこと喋る友達とかもいないので」
「え、じゃあもしかして、お昼ごはんとかもひとり？」
「そうですね」
「ええっ、あ、一人の方が気が楽とかある？ だったらむしろこっちが申し訳ないんだけど……」
「いえ、……そういう、わけでは」
どう答えるのが正解かわからなくて、途中で口を噤んだ。平気だと思っていたのだ、私も、ついさっきまで。でも自覚してからはもう戻れないような気がして、今までのようにひとりぼっちで冷たい菓子パンを食べる想像が上手くできなかった。だからといってそれを赤裸々に言うのも違う気がして、苦し紛れにとんがった短いポテトを指でつついた。
「もしよかったらなんだけど、お昼だけでも一緒に食べるかい？」
「え」
「ボクもいつも美術準備室でひとりだから。話し相手くらいにはなれるよ」
「でも、いいんですか」
「なにが？」
「迷惑だったりとか……」
「ボクから提案してるのに？ いいんだよ、いつでも来て。外で会うのは良くないかもしれないけど、学校内では別でしょ」
先生は三本ほどポテトを一気に食べると、厚紙の入れ物を平べったく押し潰した。早いな。対して全く同じものを頼んだはずの私の食事は五割も進んでいなかった。彼は指に付いた油分や塩粒を紙ナプキンで上品に拭って、俯く私をじっと見た。見られながら食べることの居心地の悪さとひとを待たせてしまっている焦燥にあてられてうわごとのように「すみません」と呟く。何度も謝ると価値が下がるから、本当は軽く言わない方がいいのに。でも他に言葉が見当たらなくて、余裕なくまた「……すみません」と言ってしまうのだった。
気を悪くさせてしまってはいないだろうか、と覗き見た先生は、困ったように笑っていた。
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作者名：こより | 作成日時：2023年3月1日 21時
