. ページ1
「Aさんは、いつもこうなの？」
先生はそう言うと、しなびたポテトを口に放り込んだ。えっと、と言葉に詰まって私も紙ストローに口を付ける。
「いつも、というわけでは……。普段はコンビニとかで済ませてますし、毎日誰も帰ってこない、なんてことはないですよ」
「そっか。でもああいうところにはあんまり行かない方がいいよ。ボクやふわっちがいなかったら、危ないところだったかもしれないから」
「すみません」
今となっては自分でもどうしてあんな場所に行ってしまったのかわからない。そういえば、先生に拾って貰ってからはあのマイナスに落ち込んだ感情たちはなりを潜めている。すっとした心地に首を捻って、ああ、と理解した。
両親の目にも碌に映れない私が、担任の先生でもない彼に気にかけてもらえるのが、単純にうれしいのだ。放置に慣れた気になって気付かない振りをしていた人恋しさが払拭されていることに気付いた。それだけじゃない。この人、ちゃんと目を合わせて喋ってくれているんだ。見透かすようないやなものでもなく、純粋に私を見てくれている。誠実な態度が、不破さんとはまた違った形で人を安心させるのだろう。同じように声をかけてきたはずの知らない大人達では恐怖しか覚えなかったのは、彼らが皆一様に好奇の目で私を刺したからだったのかもしれない。先生の根底はもっと、慈愛に近いなにかのように感じる。自分の快楽の副産物ではなく、第一に私の幸福を考え話しかけてくれたのだ。
いい人だな。あまり出会ったことのない人間性にあやふやな称賛しか浮かばなかった。
「まあ、ひとりで食べるのって、寂しいもんね」
「先生はいないんですか、彼女とか」
「いないねぇ……」
「な、なんか、ごめんなさい」
「いいんだよ……はは、教師ってほんと、出会いとかないから。ボクの人間性もあるんだろうけどさ……」
今度は先生の周りにどよんと暗いオーラが漂い始めた。まさかこの手の話題が地雷だったとは。さっき自然に私にしてくれたあれそれを反芻して、モテそうなのになぁと彼の跳ねたつむじを眺める。逆か。芸術品みたいな造形が近寄りがたい雰囲気を放っているのかもしれない。なんにせよ話題を変えよう。このままでは誰も幸せになれない。
あれやこれやと脳の引き出しを開けては閉め、切り口を探していると先生の方からこほん、とわざとらしい咳払いをした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こより | 作成日時：2023年3月1日 21時
