. ページ6
.
思わず、ごめんね、と謝罪を口にしようとした時、目の前の彼が口元から離した飲みかけのそれをこちらに見せようとギリギリまで傾けてくれていた。
「ミルク？」
私の問いに、大正解と言わんばかりの満足そうな顔を浮かべ、ゆっくりと深く頷いたかと思えば、目線をすぐさまマグカップに戻し、また至極美味しそうに残りを飲み始める。
そんな彼を見て、思わず口角が緩んだ。
思った通り言葉ではなかったものの、懸命に伝えようと奮闘する姿や内なる感情をはっきりと現してくれる豊かな表情をいつの間にかひどく愛おしく感じていて。
素性が掴めないながらにこの子にたしかに愛着が湧き始めているのを不思議に思いつつ、彼を眺めていると、ジュエリーボックスであろう華やかな装飾が施された箱を手にしたバンさんが戻ってきた。
「少しは仲良くなれたかい？」
「い、いえ。」
「あれ、じゃあ2人きりにしたのは少々酷だったかな。」
「そんなことは…！」
「ふふっ、Aさん、からかい甲斐があっていいね。スンミンがなんだか嬉しそうだからただ黙って座っていただけじゃないのは分かるよ。」
からかい甲斐があるほど面白みがある気はしないが、スンミンに決して誤解してほしくなかった。先程の対話が疎ましかった訳がない。
そんな思いから反射的に口にした言葉を聞き、ニコニコと微笑むバンさんの最初の発言は、
待ち侘びていた食事にありつけたことへの嬉しさじゃないか、と浮かれるなと言わんばかりに私の脳は否定の解釈を過ぎらせてきたが、彼の心を私が動かしたと取れるバンさんの発言を信じたい気持ちもあり、口を噤んだ。
︎ ︎ ︎
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 281人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：not found | 作成日時：2024年3月15日 2時
