半径１ｍ【ワートリ】 (ページ11)

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「誰も外そうとしなかったんだよ、それ」

『迅くん......』

背後から聴こえた声に振り向くと、迅くんがソファーの背に手を掛け、壁掛けの木札を眺めていた。

わたしがここに居ることは視えていたのだろうか。
分からないけれど、逃してしまえばしばらく捕まえられないような気がして、１つだけ訊ねようとする。
けれど、先に口を開いたのは迅くんだった。

「こっち(玉狛)に、帰って来たいか？」

『......！！』

「きっとみんな、歓迎してくれる」

１年前、夕陽の中でトリガーを渡された時と同じ言葉。
結局わたしはあの日から、１歩でも前へと進めた？
“強くなれない”ことが、なによりの証拠かもしれない。

だめだなぁ、わたし。
自分で決めたことのはずなのに、誰かに優しくされると縋りたくなってしまう。
もっとちゃんと、しっかりしなきゃいけないんだ。
全部、自分で解決しなくちゃいけない。

『......その答えは、１年前と変わってないよ』

『わたしはやっぱりずっと弱い。何が、とは言えないけどね、まだ足りないんだと思うから』

「......そっか」

「ごめんね」と言ったけれど、迅くんは木札を見たまま何も言わなかった。
わたしも俯いた先、膝の上で握ったままの手を見たまま、何も言わない。
外で流れる川の音が聞こえるくらい、この空間は静かだった。

本当にごめんね。
こんなとき、気の利く一言でさえ言い出せない。
ずっと黙っていようと、空気が悪くなるだけだというのに。
ほら、話題を変えなきゃずっとこのままだよ。
声に出そうと口を開いても、唇が震えて、呼吸さえ上手く出来なかった。

『......ねぇ、迅くん』

「ん？」

近くに居ても聞こえるか分からない、蚊の鳴くような声。
思ったより小さくて、情け無い声しか出なかったけれど、迅くんは聴き取ってくれた。

『その、遊真くんって、やっぱり近界民(ネイバー)、だよね？』

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