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近い！
近いよオジサン・・・！！
六月も終わりに近付いたある日の、じっとりと熱気がこもる電車内。
ドアのすぐ側に立ってぼーっと外を眺めていた真衣は、いつの間にやら背後に忍び寄っていたらしいオジサンに眉をひそめる。
今日は少し残業をしたから、帰宅ラッシュの時間には被っていない。
座席は全て埋まっているが、普段よりは空いている方だ。
その証拠に、真衣の周囲には誰も立っていない。
背後にぴたりと迫るオジサンを除いては・・・。
この人、なんでこんな混雑時みたいなギリギリの間合いにいるんだろう。
ひょっとして痴漢だったり・・・？
まだどこも触られてはいない。
けれど、距離感が明らかにおかしいと真衣は身構える。
それにしてもまるで忍者だ。
後ろに立つオジサンからは気配が全く感じられない。
だけど、いる。
気配もないのに何故わかるかって？
だって映ってるから。
さっきから目の前の車窓に、こっちをじっと見つめる、顎のたるんだ冴えないオジサンの顔がチラチラと反射しているのだ。
窓の外から差し込む街明かりに邪魔され、はっきりとは映っていない。
が、確かにいる。
真衣のすぐ後ろに・・・。
ううう、気持ち悪い。
ちょっと動いて迷惑だよアピールしてみようかなぁ。
もうちょっと離れてくれませんかって・・・。
そう思って、後方にチラリと顔を向ける、と。
・・・あれ？
真衣が振り向いた咲きにオジサンの姿はなかった。
いるのは数人の女性客。
その誰もが向こう側のドアを向いている。
おっかしいなぁ、さっきまで後ろにいたのに・・・。
それも、びっくりするほどの近距離に。
まさか本当に忍者で、振り向いた瞬間にドロンしちゃったとか？
や、さすがにそれはないか・・・。
けど、どこに行ったんだろう。
確かに見えたんだけど・・・。
首を捻りながらも、再び正面を向く。
ーと、
なんということでしょう。
眼前の窓ガラスに、顎のたるんだ顔色の悪いオジサンが再度映り込んでいるではありませんか・・・！
わ、やっぱりいた！
だから近すぎるよオジサン・・・って、ん？
「こっ、これって、私・・・？」
驚愕の真実に思わず声を上げてしまう。
不審がる乗客の視線に刺されながらも、ガラスに手をついて確かめる。
うわぁ・・・残念ながら間違いない。
窓に映り込んでいたのは冴えないオジサンではなく、化粧崩れでアラが出まくった己の姿だったのだ。
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作者名：カレー | 作成日時：2018年10月1日 8時
