廿漆ノ頁 お八つと記憶 ページ30
視点 中野重治
司書さんに手を引かれるまま､食堂に来た僕達｡
今更だけど､嘗ての同志達が揃ってる事に気付いた｡
司書さんは同志達に甘やかされているんだな､なんて実感して少しだけ嬉しく思った｡
「 お､来たな ? 多喜二､呼んで来てくれてありがとな 」
「 いえ､お役に立てて何よりです 」
僕達が食堂に入ると､丁度黒いエプロンを纏った志賀さんと目が合った｡
多喜二と軽く言葉を交わした後で､司書さんに近寄り雑に頭を撫でているのが見えた｡
『 わっ … ! 直哉サン､頭ぐしゃぐしゃになる 』
拗ねた様な抗議も聞かない振り､わしゃわしゃと一通り撫で終えたのか志賀さんは厨房に一度引っ込んだ後､今日のお八つを持って来て机の上に並べた｡
「 直哉サン､これは ? 」
「 今日のお八つだな｡ 確か名前は ─── 」
『 …… ガトーショコラ 』
志賀さんがお八つの名前を口にしようとする前に､司書さんがそのお八つの名前を口にする｡
世間知らずで､横文字が特に苦手な司書さんが洋菓子の名前を口にした､と言う事実が信じられなくて僕達は目を見開いて司書さんに視線を集めた｡
「 おお､それそれ ! よく知ってたな ! 」
『 え … ? あ､うん｡ 僕､その洋菓子好きだから 』
発したのは無意識だったのだろうか､自身で発した言葉に少し驚いた様子を見せながらも志賀さんの声にいつもの調子を取り戻していた｡
ふと多喜二の方を見ると､何か引っ掛かりを覚えたのか､少しだけ険しい表情を浮かべて考え事をしていた｡
「 … 多喜二 ? 」
「 … ん ? どうした ? 」
僕が声を掛けると､少しだけ顔を上げて眉を下げたまま首を傾げられた｡
相当考え込んでいたのだろう､邪魔してしまった事に罪悪感を覚えつつ「 何でもない 」と誤魔化した｡
「 早う切り分けてくだはりー ! 」
「 お､そうだな｡ じゃあ､皿取って来るからちょっと待ってろよ 」
「 おりゃあも手伝うばい ! 」と言って志賀さんの後を追い掛ける直の背中を見送り､僕と多喜二､司書さんがその場に残された｡
ちょっとだけ､気まずい沈黙が続いていて､居心地が悪く感じる｡
『 … 何か､大切な事を忘れてる気がするんだ 』
沈黙を破る様に､司書さんがポツリと呟いた｡
多喜二と少し目を合わせる､きっとお師さんと言う人の事だろう｡
「 … 大丈夫､ちゃんと思い出せるよ 」
時間が解決してくれるのを､待つ事しか出来ないのが妙に歯痒くて､机の下で掌をきつく握った｡
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新美悠華＠文アル大好き💛 - おもしろいですこれからの投稿楽しみの極みですこれからも頑張って欲しいです (2023年3月17日 15時) (
レス) @page33 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星 廉 , | 作成日時：2017年12月18日 23時
