廿伍ノ頁 ネコと─ ─ ページ28
視点 ネコ
「 もう、一年になるのか 」
吾輩の隣で何処か物憂げに彼女は呟いた。
彼女の方に視線を向けると、吾輩の視線に気付いたらしく、相変わらず食えない笑みを浮かべたので、仕方なく視線を彼女から逸らした。
「 正直、実感は今でも無いし、未だ居られると思っている。 … でも、もう難しいだろうな 」
「 … お前が連れて来たあいつは、すっかりお前の事を忘れている様だが 」
「 そりゃ結構。 私がそう仕向けたんだ、忘れていない方が困る 」
彼女があまりにも愉快げに笑うので、軽く溜息を吐いてから「 … 此処は禁煙だと言った筈だが 」と話題を逸らす様に言ってやった。
「 そう怒りなさんな 」と茶化す様に彼女は言葉を発したが、直ぐに携帯灰皿の中に吸い終えた煙草を落とした。
「 … でもまあ、一年もあれば勝手に成長していくもんだな 」
ふ、と息を吐いて彼女は呟いた。
その表情は先程の様に何処か物憂げで、何とも言えない表情に吾輩は押し黙る事しか出来なかった。
「 初めはどうなる事かと思ったが、案外馴染むのも早かったみたいだし、人並みに感情も手に入れた。 もう、あいつは空っぽ何かじゃ無い。 立派に人間してるよ 」
まるで一人語りをするかの様に、両手を広げて彼女は言葉を連ねる。
その言葉の節々には、彼女の本音が隠されているのに、吾輩が気付かない筈も無く、彼女の言葉を遮る様に口を開いた。
「 … あいつに会わなくて良いのか ? 」
恐らく、いや、確かに会いたいのだろう。
素直とは言い難い彼女は、こうやって自分の気持ちを誤魔化すのは上手いが、付き合いの長い吾輩にはお見通しなのだ。
今も一人で語り続けていた彼女は、吾輩の一言に動きと語を止めて静止した。
「 …… 会いたくない訳が無いだろう 」
先程まで悠々とした表情を浮かべていた彼女は漸く表情をくしゃりと歪めた。
全く、本当に素直じゃない奴だ。
「 でも、あいつはもう、私の事を忘れている。 今更会った所で、不思議がられるのがオチだ 」
傑作過ぎるだろう、と自嘲気味に笑う彼女は、何処か寂しそうにも見えた。
吾輩が「 それは違う 」と言おうと口を開こうとしたが、その前に彼女は切なそうに笑って口を開いた。
「 悪いな、時間切れだ。 … また、いずれ来れたら来る 」
「 待て、話は未だ ─── 」
吾輩が言い切るよりも前に、彼女の身体は煙の様に消えた。
彼女の煙草の匂いだけが微かに残り、彼女が居た事を証明していた。
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新美悠華@文アル大好き💛 - おもしろいですこれからの投稿楽しみの極みですこれからも頑張って欲しいです (2023年3月17日 15時) (レス) @page33 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星 廉 , | 作成日時:2017年12月18日 23時