空っぽ司書ととある図書館の小さな家族 (ページ26)

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廿参ノ頁空っぽ 3 ページ26

視点室生犀星

司書と小林君が潜書室を出て行ってから､数分が経過した｡
未だ､誰一人口を開こうとしないので､重たい空気が流れ続けている｡

「 … 何だよ､ちゃんと怒れるんじゃん」

先に静寂を破ったのは､呆然と立ち尽くしている赤い彼だった｡
まるで自嘲する様に自分の前髪を掴み､口元を歪に歪めていた｡
他にもブツブツと独り言を呟いていたが､言葉としては聞き取れなかった｡

「君は､司書さんを侮辱したくて侮辱したのかい ? 」

次いで芥川が赤い彼に問い掛けた｡
赤い彼は左右に首を振り､「そんな訳無いじゃん … 」と呟く様に言った｡

彼の話を聞く所､司書はまるで人形の様に見えたらしく､人形に仕えるつもりは無い､と言う意味合いで先程の言葉を言ったらしい｡

「きっと人形何だろうなぁ､って思ったのに … ｡ちゃんと人間だったんだな､あの人」

赤い彼はどうやら反省している様子だ｡
芥川と顔を見合わせ､目配せした後で彼をもう一度見る｡

「ねぇ､僕達も一緒に行くから､司書さんに謝りに行こう ? 」

「このまま誤解されるのも嫌だろ ? これから同じ図書館で過ごす訳だし」

「ええ … ? で､でも … 」

吃る赤い彼の意見はこの際無視をする事にする｡
身長的に一番似合う芥川が､赤い彼を持ち上げる｡
暴れ出そうとする彼を制し､潜書室を後にする｡

目指すは司書と小林君が居る食堂だ｡

「司書さん､小林君､届け物だよ」

食堂の扉を俺が開け､先に赤い彼を抱えた芥川を食堂に通す｡
丁度昼時と言う事もあって､食堂は昼食を楽しむ文豪達で賑わっている｡

「犀星先生 ! それに､芥川センセも ! … って､何連れて来てはるんですか ! 」

司書と小林君の元に居た織田君が､先に俺達を見つけて駆け寄って来る｡
織田君は芥川が抱えている人物を見つけるや否や､腹を抱えて笑い始めた｡

「お､織田君 … ? 」

「ひー … ､いきなりわろてしもてすんません｡いやー､太宰クン｡憧れの芥川センセに抱えられる感想はどや ? 」

「へ ? 芥川､先生 … ? 」

「ん ? 何かな ? 」

太宰クン､と織田君に呼ばれた赤い彼は､壊れかけの人形の様に芥川をゆっくり見上げる｡
芥川の表情は状況を理解していない時の表情をしながら､返事をする｡

その赤い彼は声にならない絶叫を上げた後､食堂中の文豪達の視線を受けながら気を失ってしまった｡