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廿弍ノ頁 空っぽ 2 ページ25

視点 室生犀星


「 俺、空っぽな人形について行くつもり無いから 」


彼の一言で、周りの空気が一気に冷えたのが分かる。
普段感情を表に出さない小林君さえも、怒りを顕にしている。
それくらい、彼の放った言葉は罪が重い言葉だったのだ。
転生したばかりの芥川が怒りと言うより失望した様子で赤い彼を見て、大きな溜息を吐いた。


「 転生したばかりで佐藤先生を卒倒させて、司書さんまで侮辱して … 。 君、かなり罪深い人だね 」


赤い彼は悪びれる様子も無いようだ。
嗚呼、ここに椅子があれば振り回しているのに … !

徐々に周りの苛立ちが募る中、司書が突然赤い彼に歩み寄った。
小林君が司書の手を引いて寄らせない様にしようとするのが見えたので、掴む寸前で小林君の手を取り、様子見の意を込めて首を振った。
小林君は苦々しい表情で、両手を上着のポケットに入れて司書の背中を見ているだけに留まってくれた。


「 あ ? 空っぽの人形が何の用 ? 」


司書は何も答えない。
赤い彼は何も答えない司書を煽る様に言葉を続ける。


「 此処の文豪もさ、アンタの影響受けて空っぽなんじゃない ? 俺、人形になるのだけは嫌だし、アンタについて行く位なら本に戻った方がマシ ── 」


彼の言葉を遮る様に、少し高めの乾いた音が潜書室に響き渡った。
一瞬、何が起こったのか理解出来なくて、皆が静まり返っていた。
司書の表情は見えないが、どうやら司書が赤い彼の頬を平手打ちしたらしい。
赤い彼は打たれた頬を抑えて呆然としていた。


『 僕を侮辱するのは構わない。 でも、先生達を侮辱するのは許さない 』


平手打ちを終えた手をそっと戻し、赤い彼をしっかり見据えた司書は一言告げると、踵を返して此方を振り返った。
振り返った直後の表情は一切色が乗っておらず、無に近い表情をしていたが、視線を上げて俺達を見るなり、途端に気の抜けた笑みを浮かべて歩み寄ってくれた。


『 お腹空いた。 多喜二君、直哉サンの所行こう ? 』


そう一言告げると、司書は小林君を連れて潜書室を後にした。
未だ空気の重い潜書室には、俺と助手の芥川、そして、相変わらず呆然と頬を抑えて立ち尽くしている赤い彼が残った。

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新美悠華@文アル大好き💛 - おもしろいですこれからの投稿楽しみの極みですこれからも頑張って欲しいです (2023年3月17日 15時) (レス) @page33 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星 廉 , | 作成日時:2017年12月18日 23時

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