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「五条さん」
私は身体の向きを変えた
淡い橙色の光の中で、五条さんの白髪が絹のように美しかった
「…本当は…寂しかったです」
「僕の感動的な哲学話を聞いて心を開いてくれたの?説得力の塊とは正にこの事?」
「実際そうです。五条さんの考えに少し、いえ大分私の心が救われました」
「この数分で僕は君の心をも助けちゃったわけか、いやぁ罪な男だなぁ」
「私、弁護士の勉強を始めて沢山悩みました。支えてくれる人が遠くにいる中、一人狭い静かな部屋で毎日過ごして」
「怖くなりました」
「沢山、苦しくなりました。何度も泣きそうになって、でも、泣いたって変わらないって思って」
感情が徐々に昂る
今まで、ずっと独りに戻ったみたいで
何も言い出せなかった自分が、感情を出そうと内側から外側へ押し込んでいる
喉に変な塊ができたみたいに言葉も声もつっかえて、じんわりと広がってくように微かに痛んだ
目頭が熱くなって、視界がぼやけた
「私五条さんがいないと、ダメなんです。気持ち悪いかもしれませんけど、五条さんがいなきゃ」
涙を必死に奥に留めようとした
泣きそうな顔も見せたくない
私は出来るだけ俯いて、思いの丈をぽつりぽつりと話した
五条さんはその間、ずっと頷いて頭を撫でてくれた
あの時みたいに
「ごめんね、僕が苦しい思いをさせたね」
私は首を振った
「でももう、僕は君から離れない。大丈夫。ずっと一緒だ」
「こんなイケメンと一緒に入れる幸せ者はそうそういないよ?」
五条さんは楽しそうにケラケラと笑って、優しく接してくれた
「…顔見せて」
「…駄目です」
「なんで…?」
「今酷い顔してます。五条さん見たら、きっと泣いてしまうので」
「僕の顔みたら泣いちゃうの?あまりの美しさに感涙?」
「そういうことに、しておいてください」
「分かった。そういうことにしておく。だから、めいっぱい泣いていいよ」
その言葉を言われて、ピンと張っていた弦の繊維がほつり、ほつりと解れていくように
涙が流れた
声は出さなかった
この静かで優しく暖かい空間を、私の感覚に残しておきたいと、覚えておきたいと
そう思ったから
気付いたら、泣き疲れて寝てしまっていた
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黒凛蝶(プロフ) - 玲奈さん» 閲覧、コメント有難う御座います!とても素敵なお言葉を本当に本当に有難う御座います…思わず泣きそうになってしまいました。背中を更に強く押されたような気がします。どうかこれからも何卒宜しくお願い致します! (2022年8月8日 23時) (レス) id: e6bcf3a4ef (このIDを非表示/違反報告)
玲奈(プロフ) - コメント失礼します!凄く素敵なお話を書いて下さりありがとうございます!途中からほんとにドラマを見ている気がして…とゆうかこれはもうドラマ化すべきなのでは!?となりました 黒凛蝶様の書く小説は好きな作品が多くて嬉しいです!これからも応援してます! (2022年8月8日 4時) (レス) @page50 id: d602917972 (このIDを非表示/違反報告)
黒凛蝶(プロフ) - うぇいさん» コメント、閲覧ありがとうございます!そう仰っていただき作者の目頭が熱くなりました…。読んで頂き本当本当に感謝です! (2022年1月6日 21時) (レス) id: e6bcf3a4ef (このIDを非表示/違反報告)
うぇい - とても素敵な作品。終盤の展開に目頭が熱くなった (2022年1月6日 19時) (レス) id: daba836190 (このIDを非表示/違反報告)
黒凛蝶(プロフ) - おまるさん» コメント、閲覧ありがとうございます!おまるさんの楽しみとなれる作品を作れて作者は本望です…!今作は完結してしまいましたが、またの機会がございましたら何卒作者をよろしくお願い致します (2021年6月27日 1時) (レス) id: e6bcf3a4ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒凛蝶 | 作成日時:2021年4月16日 20時