【d!】虹色の今日を【企画短編】 (ページ32)

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▽ ページ32

「君、傘ないの？」
そこにいたのは、ずっと目で追い続けてきた人。

「おーい、聞こえてる？」

処理が追いつかずボーッとする俺のすぐ目の前まで近付いた彼女は、顔の前で左右に手を振った。
「…あ、はい。」
その返事は『傘ないの？』に対してのものなのか、『聞こえてる？』に対してのものなのか自分でも分からない。

「じゃあこれ、よかったら使って？」

はい、と彼女が差し出したのはピンク色の折り畳み傘だった。傘？生徒会長の？どうして俺に？そんな疑問を口に出す前に、強引に手に傘を握らされた。寒さのせいか少し冷たい彼女の手が触れた部分が徐々に熱を持つ。
「雪の中、傘もささずに帰ったら風邪引いちゃうよ。だからどうぞ！」
「あ、いや、でも会長は…！」
「お～、私のこと知ってるんだ！」
何を言っているのだろう、この人は。
生徒会長のあなたを知らない人間などこの学校にはいないのに。…なんて口に出したりはしないけれど、そう言って笑う彼女が素直に可愛いと思った。

「私は生徒会室に長い傘があるから大丈夫！」
「いや、でも、そんな、悪いです…。」
「じゃあ、これは生徒会長命令です。」

ピシッ、とこちらに人差し指を向けた彼女がすごく真剣な顔をしていたものだから、こちらまで少し緊張してしまった。
「な～んてね、嘘嘘。ごめんね、後輩くんを少しからかってみたくなっちゃったの。」

『後輩くん』

俺と彼女の間にある“歳の差”という壁をはっきりと示されたようで、少し胸が痛んだ。
「あの、じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか？」
「もちろん。」
「絶対に返しに行きます！」
「安物だし、気にしなくていいよ？」
「いえ、そういう訳にはいかないので！」
俺がまた、あなたに会いたいだけ。会う理由が欲しいだけ。
「あ、お名前聞いてなかったね。」
「一年五組のショッピです。」
「生徒会長のAです。」
もちろん知っています。クラスも、所属する部活も。
「本当にありがとうございました。失礼します。」
「気をつけて帰ってね、ショッピくん。」
ひらひらと手を振る会長に見送られ、俺は傘を差して歩き出した。ピンク色の花柄の傘。それを持つ俺はおそらくとても不格好で。…でもそんなことは、今の俺にとっては関係なかった。