6 明日から研修 ページ6
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明日からの勤務を考えて、夕方からカレーを作り始めた。
これで、三日はもつ。
出来上がって満足して、部屋中に広がったカレーの香りを消したいのと、気分転換も兼ねて窓を開け、ベランダに出た。
あっ、また見てしまった。
ベランダに出て、右側を見る癖……
いつも、お隣さんとの境の『非常の際はここを破って隣戸へ避難してください』を見てしまうので。
こっちに来る時に、有岡にもらったマーブルチョコのシールを、こっそりその仕切りに貼ってしまったのだ。
小さな長方形のシールで、「世界の旅」がテーマになっていた。
「CHINA」が出て、パンダと万里の長城が描かれている。
それを見ては、子供扱いされた事をイラッとニヤッとする。
そして、夜の入口の少し寒く感じるベランダで、手すりに腕をかけ、目を細めた。
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やっとだ･･･
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やっと抜け出せた。
そして、明日からの新しい生活が始まろうとしている。
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聞きたくない事が不意に入ってくる十四年間。
自分のホントの気持ちを言えなかった十四年間。
そのせいで、思春期には大好きなお母さんともケンカばかりしてた気がする。
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隣りに住む、あいつのせいで。
いや、あいつの親のせいか。
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もうどっちでもいい。
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千葉の実家から、はるばる札幌に就職を決め、やっと一人になれたんだから。
ここのマンションのベランダは狭いけど、出たい時に出られる自由な感じが、嬉しすぎる。
目の前に、ラベンダー畑やオホーツク海があるわけじゃないのに、雄大な北海道にいると言うだけで広い世界に放たれた気になる。
A「ふふっ･･･」
思わず、声を出して笑ってしまった。
あそこから抜け出したい理由は、裕太くんのせいじゃない。
そう、有岡のせいなんだ。
傷つきたくなくて、認めないようにしてたけど。
いつもどこかで、有岡の事が気になっていた。
裕太くんの事は、もちろん大好きだったし愛してた。
それとは違う、幼馴染の男の子への複雑な気持ちに縛られ過ぎてた。
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開放された心に、大きく深呼吸をする。
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えっ……この臭い……
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いつのまにか嗅ぎなれてしまった、この臭い……
A「えっ！嘘！何してるの？」
マンションの下にいるのは、大きなスーツケースに腰掛けてタバコを吸ってる、有岡だった。
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作者名：やまぱん
| 作成日時：2019年5月27日 23時
