1 Daiki 北海道に出発の日 ページ1
Daiki
有岡「寒くない？」
A「うん……」
こっちを見ないで窓の外を見ている。
有岡「しばらく帰ってこないの？」
A「分からない」
有岡「そぉ…‥」
俺と話したくなさそうで、すごくテンションが低い。
有岡「寝ててもいいよ」
A「……うん」
「うん」と言ったけど、寝る様子はなく。
肩から下げているバッグから、何かぬいぐるみを出した。
そんなに大きくなくて、フワフワでもこもこしたクマのぬいぐるみ。
この前持ってたやつだ。
それを胸の辺りで持っている。
昔、ミミちゃんを抱っこして、外の景色を見せてたのを思い出した。
・
有岡「それ、大切なの？」
A「ねえ、音楽、違うのにして」
有岡「おぉ、うん……」
全然質問の答えじゃない。
Aの好きなミスチルにするか。
音楽を変えても、表情は変えなくて。
いいのか、悪いのか分からない。
有岡「まだミスチル、聞いてる？」
A「前に乗った女の好きな曲かと思ったから、変えて欲しかっただけ。
別になんでも良かった」
聞いてるのかどうかの返事はない。
怒ってるんだろうな、きっと。
有岡「あいつに送ってもらうんだった？」
この気まずさを打破したくて、直接聞いてみた。
A「そんな事聞くなら、乗せないでよ」
有岡「ごめん……」
クマのぬいぐるみが、怖がってない？
何を聞いても、こんな感じなら、話さない方がいいかと思って。
しばらく静かにミスチルを聴いていた。
ルームミラーでAの様子をのぞくと、スマホを見てるようだ。
スマホを見て、
窓の外を見て、
スマホを見て、
小さくため息をつく。
有岡「一人暮らし、楽しみ？」
ルームミラー越しに、目が合った。
すぐ目をそらされ、また窓の外を見ている。
A「裕太くんは、初めて純粋に好きって思えた人だった」
何度目かの無視……
会話は諦める事にした。
有岡「うん」
A「それまで、好きって思ってた事が、なんだか違ったっぽくて。
ううん、私はすごく好きだった。
だから、大切なものもあげたし、ずっとそばにいたかった」
大切なものって、ミミちゃんの事じゃないよね。
有岡「うん」
A「相手の好きの種類が、幼馴染としてだったっぽい」
・
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作者名：やまぱん
| 作成日時：2019年5月27日 23時
