20 握手 ページ20
・
有岡「うん。
昔もなかった?」
A「あったっけ?」
有岡「はい」
目の前に有岡の手が差し出された。
細くてすらっとした指。
関節が太くて、小さいけど、男を感じる手。
恐る恐る手を近づけ、最後は有岡の手がグッと前に出て、私の手をつかんだ。
そして、左手が私の手の甲を包み、有岡の両手に包まれた。
相変わらず、そんなに温かくない手。
一人でこっちで頑張るって決めた心が、誰かに寄り添いたくなっていた。
ずっと背中合わせで違う方向を見ていた。
今はその背中に寄りかかり、支えて欲しいって思い始めてた。
・
A「ありがと。
風邪ひかないようにしてね」
有岡「おぉ。
じゃあ、明日から仕事頑張れよ」
手と手が、すっと離れた。
A「うん、おやすみなさい」
有岡「おやすみ」
後ろを向き、ドアのノブに手をかけたら、さっき買ってきたばっかりのサンダルに足を入れていた。
なんだろって思って振り返ると、ちょっと笑いながら
有岡「送ってく。
いやー、今までも近かったけど、今度は壁一枚だからな、相当ちけえわ」
A「ふふっ、だから送ってもらわなくて大丈夫だって」
有岡「いや、ちゃんと部屋に入るのを見届けたい」
有岡んちのドアを開けると、開けたままドアを支えて、家の方を見ている。
私が鍵を開けるのをニヤニヤしながら見てるし。
ドアを開け、小さく手を振って中に入り、私もドアとの隙間から有岡の方を見た。
内緒話の声の音量で「おやすみ」って言い合って。
多分先に閉めないと、永遠に向かい合ってることになりそうなので、先にドアを閉めた。
ガチャンと鍵をかけると、有岡んちの方からも聞こえた気がした。
明日の仕度を、もう一度確認して、早く寝ないと。
カバンの荷物を確認してたら、携帯がピロンッて鳴った。
有岡からのLINEだ。
有岡『昔、メールを交換してたのが懐かしい。
忙しい時は既読無視でいいから。
見てくれたってだけで、安心する』
絵文字が無くなってて、ニヤケてしまった。
有岡も、大人になったなって。
でも、その数秒後に送られてきたスタンプが、ウサギがハートを投げてるやつで。
思わず……
A『このスタンプ、他の娘の使い回し?』
有岡『ちげーわ!』
すぐに来た返信に、やっぱりなって思ってしまった。
1196人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:やまぱん | 作成日時:2019年5月27日 23時