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A「待って。
私の分……」
慌ててお財布からお金を出した。
有岡「いいよ、いらない」
A「やめて。
いつも、ちゃんと割り勘にしてるでしょ。
今日は、ちゃんと大貴と食べてくるって言ってきたし、お金も貰ってきたから」
大貴の手元に置くと、仕方なくって顔でそれを受け取った。
入って来た時とは全然違う顔で、入口でお会計をしている。
店員さんに「またいらしてくださいね、彼女さんも」
そう言われて。
とうとう涙が流れた。
お財布をお尻のポケットにしまった大貴の手が、私の腕を強めにつかんだ。
逃げ出したかったのに、つかまってしまった。
有岡「ごちそうさまでした」
店員「え、どうしたの？
何か、あった？」
私の涙に気がついたんだ。
有岡「いえ、大丈夫です」
そう大貴は言ったけど、もう二度と来ない気がしたから、ボソボソと言ってやった。
A「私、今日初めて来ました」
店員「え……」
有岡「あ、ごちそうさまでした」
店員さんが固まってる間に、腕を引っ張られて店から出た。
ムシムシとした梅雨の夜。
エアコンが効いたところから出たのと、気持ちのせいで、不快感が半端ない。
もちろん大貴は怒らなかった。
それに何も言わなかった。
大貴につかまれてる腕が重い。
路地から出た所で、私の顔を覗き込んできた。
有岡「ほんと、ごめん。
Aと来るのに、恥かしい思いしたくなくて、本当に下見をしたかったんだって。
食事じゃなくて、午後のなんていうの、デザートとお茶だけの時間だったし。
あっという間だったんだけど……
だから、顔、覚えてると思ってなくて」
A「お茶の時間に、ディナーの事なんて分からないじゃん」
有岡「メニューみせてもらった」
A「そんな事したら、覚えられるでしょ。
どっちにしろ、もういいよ……」
有岡「だから、もういいってなんだよ。
俺が、こんな謝ってんのに、なんで分かんねえんだよ」
珍しく、大貴が声を荒げた。
怒ってるんだ。
怒りたいのは、こっちなんだけど。
いや、泣きたいのか……
大貴の周りには、いつも女の子がいる。
それも、大貴の事、好きっていう女の子。
告白されなければ、ただの友達だって言うし。
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作者名：やまぱん
| 作成日時：2019年3月13日 22時
