【千至】すずらんとガーベラのコサージュ【短編集】 (ページ9)

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悲しそうな顔をした先輩が聞いてくる。俺は「はい」の意思を表すために首を縦に振る。

　「そうか……茅ヶ崎、多分お前は対人恐怖症になったんだと思う。やってもいない罪を着せられ、信じていた仲間、家族から裏切られた。それで人間不信に陥って声がでなくなった……違うか？」

　『わからないけど、多分そうだと思います』

　人間不信になったのかな、俺。だけど、やってないのだから弁明しようにもうまくできないし、なにより皆の前に立つことがもう怖い。

　「あの写真はちょっとうまくできた合成写真だったし、証拠もきちんとしていない。誰がこんなことをやったのかわからないが、茅ヶ崎。少なくとも俺はお前の味方だからな」

　先輩の温かい声に思わず涙ぐんでしまう。

　『だけど、もうこんなことになったからには俺はここにいるべきじゃないと思うんです』

　先程考えていたことを文字にして伝える。

　「……たしかにな、酷なことだが今回の件で幹部内にも混乱が生じている。その混乱で実害が出る前になんとかしなければならないのは事実だ」

　『だけどここから出ていってもどこに行けばいいかわからないんですよね』

　そう書き、苦笑する。俺はどこかで野垂れ死ぬ以外無いのかな。

　「それなら俺も一緒にここを出ようか？声が出ないなら1人で今後も生きていくなんて無理だろう。俺と一緒なら今まで通りの生活を送れるかはわからないが少なくとも衣食住は保証できるしな」

　『いいんですか？だって先輩は普通に仕事もあるでしょうし』

　流石にそこまでしてもらうわけにはいかない。これ以上先輩に迷惑をかけたくもないし、他の人からしてみれば裏切り者を庇ったということになるから先輩の立場も危うくなるだろう。