壊れた檻※グロ注意 ページ26
大きい檻の中にいる。
目を開いて虚空を見つめている。
身体を起こさずただなにか輪郭のあるものを目にとめた。それがなんなのか考えても段々ぼやけて消えていくそれを見つめているとなんでもよくなった。
ふと寒気がした。
身体が少し強ばって、目に力が入った。
ぼやけて消えたんじゃない、自分で消したんだ。
もう一度見えたソレは…鈴？
ﾁﾘﾝ
そう思えば無音だったはずの空間に音が響き始める。
きれいだ、このままどこまでも連れていかれそう。
木霊する音に耳を傾けていたら突然消えた。
何かが壊れるような音がした。
何かが肌を伝う。
肌に触れる感覚はとても鋭くて硬い。
異様な匂いがする、でも分かる。
口の中に液体が入る。この好きじゃない味も分かる。
これは自分の、血だ。
檻の上から永遠と流れてくる。
どんなに目を逸らしたくても無理だった。
視覚が、聴覚が、触覚が、嗅覚が、味覚が、もう見ないふりを許さなかった。檻を掴んだ。
大きすぎた檻は細く小さくなった身体を悠々と通せた。だけどイラついた。こんなに苦しい思いをした場所を残すなんて、無理だった。檻がへし曲がる、…軽いな。
白い世界に包まれる。白く白くなって、物の輪郭も影も何もかも1色に染まる。＿＿いま、いしきがとぶ。
「A、良かった…急に倒れるから焦ったよぉ。」
身体が動かない。
気持ち悪い。恐ろしい。
感情を押し込められない。
ずっとずっと押し込めていたものが逆流した血管のように身体を巡っていく。
全てが嫌だった。
優しく頬を伝わせるその手や仕草、楽しそうな顔、身体に付いた機械の数々、その全てが嫌悪感を増す存在になっていく。
おなかがすいた。
空腹感はなかった。しかし満たされてもいない。
添えられた手を自分の両手で包む。そのままその小指を噛んだ。………噛み切れない、でもあの時よりは柔らかいか。
第1関節が骨ごと消え、断面が絵本のお肉みたいだった。満足感は得られない。というか不味い。全てを吐いても残る鉄の味。当たり前か、自分の血液の方が美味い。
「…な、にしてんの」
後ろから声がして、でも振り向くことが出来なかった。
『来ないで』
歩み寄っていた足音が止まる。顔を見ずにそのまま叫んだ。どんどんと溢れかえってくる記憶を受け止めながらそれでも拒否した。
『人間は嫌い。自分も嫌い。でも得体の知れないような奴も怖い。化け物も嫌い。』
『さよなら』
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