九話 ページ10
夢から覚めた様な心地で、二人は男の死体に対面した。
首には、くっきりと縄の痕がついている。
「どうしようか、これ」
「相談した通りにしましょう、一先ずは……」
二人は頷くとナオミと男の部屋の天井に紐を吊るし、二人がかりで男の首をかけた。その間、二人は手袋をしていた。
そして手袋を仕舞ってから、もう一度男を引きずり下ろす。
あたかも、今、男の首吊り死体を見つけた様に。
兄は男を床に寝かせると、人を呼んでくる、と慌てた声を発し、一目散に外へ駆けた。
妹は父親の遺体を前にして叫んでいた。
兄はアパートを出て一番に見付けた二人組にすがり付いた。
乱歩と歩いて居ると、青年が息を切らして私の服の袖を引いた。
「父さんが……、父さんが部屋で首を吊ってて……。病院へ連絡して下さい、お願いします、父さんが……!」
ずいぶんと気が動転している様だった。一先ず先ほど見かけた公衆電話から病院へかけ、青年に様子を聞きながらその旨を伝えると、青年について部屋へ向かった。
中年の男の前で女が顔を覆って泣いていた。青年が声をかけているところを見ると、兄妹だろう。しかし、兄妹にしては似ていない。
男は既に事切れていた。
側には縄が無造作に置かれ、男の首には痕が残っている。
自 殺だろう。青年は父親を縄から降ろしたと言っていた。縄を外していてもおかしくはない。
やがて救急隊が到着し、警察も到着した。
警察も同様に自 殺と見たらしい。危うく犯罪者であった男の顔を覚えており、借金や問題が山積みであったことも手伝ったらしい。
青年は気丈に答えていたが、顔面は蒼白で驚きと絶望を隠せていないようだった。
妹と思しき女は終始泣いており、傷の深さが伺えた。父親が死んだ時の態度として不足な点は見当たらない様に思えた。
ただ一人、乱歩を除いては。
特異な才能を異能力だと騙してはいるが、探偵気質の彼には不自然な点があるようで不服そうな顔をしている。
「乱歩、話は後で聞いてやる。今は黙っていろ」
「わかったよ、社長。その代わり甘いものね」
「……仕方ない」
乱歩は言った通りにその場では黙って居てくれた。
事は自 殺だろうと話が付き、事態は収集されつつあった。
私と乱歩は機を見計らい、その場を離れた。
手近な甘味処を探し店内へ入る。
乱歩はあんみつを頼むと言った。
「馬鹿じゃないの、自 殺とばかり思い込んで!」
まずはその声の大きさに驚いた。
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