七話 ページ8
殺しちゃいましょう?
紛いなりにもあれはナオミの実の父親のはずだ。そう簡単に、殺すなんて言えるものか。
いや、案外人っていうのは丈夫に作られているのかも……。
頭の中で思考が交錯した。
もちろん殺人は犯罪だけど、僕らが悪いより父親がもっと悪い、と成敗のつもりでもあった。
「そうしようか」
その一言を絞り出すのにずいぶん時間がかかった。
その日から二人は念入りに父親殺しの作戦を立てた。
それは子供がたてる秘密の作戦みたいで、案外楽しかったのを覚えている。
決行は秋の初旬の予定になりそうだった。
しかし、万事上手くはいかない。
その日も僕は奥側の部屋で机に向かっていた。夏休みももう終わりに近付いた頃だった。
また、ナオミと父親が共に帰って来た。
僕は今度こそ、と変に意気込んでドアに耳を当てて向こうの様子を探り始めた。
「ったくよぉ、てめえはいつからそんな稼ぎが悪くなったんだ?大事な父ちゃんの為にお金、くれねぇのかよ、あ?」
と父親。相変わらずの腐った根性。
「こんなクソ親父に渡す金なんてないわ、私だって生きるのに必死なんですもの。金が必要ならご自分でお稼ぎになったら?」
ナオミも負けてはいない。言っていることはナオミの方が正統性があるように思える。
「なーに言ってんだ、俺が働ける訳ねぇだろ。てめえは十六年間何を見てきたんだ?」
「なーんにも。ただの酒に溺れた賭け中毒の男よ」
「それが俺だ」
「道理で使えない訳ね」
パシィ、と平手打ちの音が響いた。もう一度、もう一度。どちらも声を上げない。
「気に食わねぇなぁ、あの女に似て美人に育ったかと思えば性格まで似ちまった。俺の憎らしさも含めてな。
とんだ娘っ子だよ」
次は殴る音だ。それから重い、倒される様な音が続いて、更に殴る音。頬や腹を拳で打つ音が連なる。
ナオミは一言さえも言葉を漏らさない。
いつしか僕は腹を括っていた。
手には前に殺人用に用意した縄を握っていた。
そして、ゆっくりと居間へ移動し、父親の真後ろまで歩み寄る。
首に縄を掛けようとした瞬間、父親が振り返る。ギッと見開いた目に怯えたが、何も言わない。
そしてまたナオミを殴り付けようとしたその時、僕は父親の首に縄をかけて、締めた。
男は苦しそうに顔を歪めた。それさえも演技染みている気がした。
あるだけの力で締めると、ものの数分で父親は動かなくなった。
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