四話 ページ5
根を詰めすぎだ、たまには休め。
そう言われて、バイトを一日休まされた。
確かに疲れてはいたから、その気遣いが有り難かった反面、昼間に母さんと家に居るのは忍びなかった。
家と言っても、アパートで、台所と風呂、トイレの他には三つしか部屋がなく、ひとつは居間として使っていた。
もう片部屋は僕と母さん、もう片部屋はナオミとあの父親の部屋になっていた。
「母さん、僕、今日は休みだから」
「そう、ちゃんと体を休めてね」
「うん……」
母さんが帰って交わした会話はそれだけだった。
母さんは歳に合わない派手で露出の多い格好をしていた。
それを着替えると、もう何年も着古した部屋着で布団に潜り込んでしまった。
僕は何もすることがなく、母さんの様に外を眺めるしかなかった。高校の宿題は順調に進んでいるし、わからないところもない。部活には入っていないけど、十分な学校生活が送れていた。
そのまま昼近くになっていた。いつしか夏風に吹かれてうたた寝をしていたのに、荒々しくドアを開ける音で起きてしまった。
母さんも目を覚ましている。
「何処に居やがる?金が無くなったんだ、早く寄越せ。おい!!」
父親の声だ。痩せ細った体格に似合わない、野太い賤しい声。
母さんはフラりと立ち上がり、僕を目で制すと居間へ出て行った。
僕は母さんの眼差しが言った様に、物音立てずじっとしているしかなかった。
「何処に隠れてたんだ、ん?
悪かった、怖かったよなぁ、あんな声出して。
済まねぇ……。金、無くなっちゃったんだ。もう酒でも飲まないとやってけないんだ。
もう最後に、最後にするからお金、くれないかなぁ……?」
母さんが姿を現した途端に父親の声は柔らかくなった。
吐き気さえも催すように思えた。
優しい母さんは最後ではないとわかっていながら金を渡してしまうんだろう。
「これっぽっちか……。
いや、大事に使う。大事に使うよ。これを使ったら仕事を探すんだ」
母さんのすすり泣く声が聞こえた気がした。
弱虫な僕は居間の様子を覗くことは出来ず、ただ息を押し殺しているしかできない。
しばらくして、父親は帰って来た。今度も荒々しくドアを開け、野太い声をあげていた。
居間に居たままの母さんは、そのまま殴られた。男の怒りのままに殴られた。何か怒鳴っていたが、何を言っているのかはわからなかった。
母さんが小さく呻くと、男はまた猫なで声で母さんを労るのだった。
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