二話 ページ3
僕がナオミと対面したのは、親が同棲し始めてからだった。
引っ越しだの何だのと忙しくて、気付けばもう五月の連休に入っていた。
母さん達はそんな金が何処にあったのか、二泊三日の旅行に出掛けた。
僕は少しでも生活の足しになればとアルバイトを始めていた。
二日目の、一人で過ごす夜にひとりでに鍵が開き、続いてドアが開いた。
思わず夕飯を食べる手を止め、その光景を眺めていると、外の闇に溶け込んだような黒髪と、闇に浮いたような白い肌が現れた。
「あら、こんばんは」
彼女は微笑んだ。僕はその姿を目に映しながら少し頭を下げた。
彼女は僕の前へ向かい合って座ると、話し始めた。
「私、ナオミって言うの。初めまして。今十五歳。貴方は？」
「あ、谷崎……。潤一郎です。僕も十五」
「可笑しな人ね、もう家族なんだから名字まで言わなくて良いのに」
そう言うとナオミは小馬鹿にしたように笑った。僕よりも随分大人びた仕草だった。
「ねぇ、誕生日は？」
「七月二十四」
「じゃあナオミが妹ね。よろしくお願いしますわ、お兄様」
僕は慌てた。妹、なんて考えもしなかったからだ。
「止めてよ、お兄様とか。歳は変わらないんだし、名前で呼べば良いんじゃ……」
「ご不満？せっかく兄妹なんですもの。兄妹らしくしたいわ」
「……わかった。けど、外では呼ばないでほしい」
「どうして？」
「容姿、似てないだろ？こんなのじゃ兄妹だとは思われないよ」
「そんなの構いませんわ」
「僕が構うんだけど……」
ナオミは時々、僕の夕飯を手でつまみながら話していた。
そのせいで、ただでさえ少ないおかずはもっと少なくなってしまった。
「お兄様は学校へ行ってらっしゃるの？」
「一応ね。ナオミは……」
そう言いかけてから不味い、と閉口した。
こんな家庭状況で、しかもちゃんとした時間に帰っていなかったのだ。通学しているとは思えなかった。
「私は……。中学からほとんど行ってないわ。ずっとお金を稼ぐのに必死だったから」
予想以上の答えが返って来た。さすがに続ける言葉がない。
「ろくに働きもしないの、あの人。だから考え付く限りのお金になることはしたわ。
体も売ったし、盗みもした。すりも稼ぎやすかったわ。
でも、働き手が増えたし、あの人の分はもう良いや。今度からは私とお兄様の為に稼ぐの」
僕は何も言えなかった。ナオミはその内、勝手に布団を敷くと勝手に寝てしまった。
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