After story 20. ページ38
-Hina Side-
｢あ、いた。｣
今日はA先生の退院日。
見送りにいこう、とみんなで広い院内をうろついていた。
夕日が傾く頃、渡り廊下で立ち止まっている2人が目に入った。
こちらに気づいた彼女は、見覚えのあるパーカーから僅かに覗いた手をひらひらと降っている。
病院でも独占欲を見せつけてくるなんて、音羽先生ったら意外と大胆。
なんだか少し可笑しくなり、にやけ顔のミンさんと顔を見合わせる。
ご迷惑おかけしました、そう言って頭を下げる彼女は、清々しい笑みを浮かべていた。
あの日、自分の命と患者の命を天秤にかけ、冷静に決断を下し、応急処置に徹していた彼女の苦しみは、計り知れないだろう。
心から愛する人が居て、愛してくれる人が居て、これから先の幸せな未来が約束されているようなものなのに、消えかけていた目の前の命から逃げなかった。
きっと私には、できない行動。
「A先生が、助かってよかった。」
思わず零したその言葉は、張本人の彼女にも、その周りを囲んで話すメンバー達にも届いていなかった。
でも、ひとりだけ。
「あなたたちのおかげですね。」
いつの間にか隣に立っていた彼だけが、こちらには目を合わせず、私の言葉に頷いた。
「彼女を必要としてくれる場所は、彼女の存在を求めている場所は、十分すぎるほどにある。あの背中を見て、刺激を受ける上司も、支え合えるような同期も、志す後輩も、手を差し伸べてくれる仲間も。こんなにも、大切にしてくれる人がいる。」
彼の言葉に、次々と色んな人の顔が脳裏に浮かぶ。
私たちTOKYO MERだけじゃない。
救命の皆さんも、YOKOHAMA MERも、病院中の患者さんも、消防や警察やレスキューも。
みんな、あなたを大切に想ってる。
だから、助かった。
あなたは、生きるべくして生きている。
「そんな彼女を、ひとりの医師としても、パートナーとしても、誇りに思います。」
「音羽先生。」
戯ける喜多見チーフや徳丸さんを前に、あどけない笑みを浮かべるA先生。
今までとなにも変わらない、光景。
でもそれは、あの日私たちが決死の想いで掴み取った、何物にも代えがたい日常でもある。
そんな彼女に背を向け、彼は声を押し殺して泣いていた。
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Ria(プロフ) - とても素敵なお話でした この後の2人がすごーく気になりますが(笑) (11月22日 8時) (
レス) @page47 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)
mi(プロフ) - 琉愛（るあ）さん» 琉愛様→最後までご覧頂きありがとうございます…！楽しんでいただけたようで嬉しいです〜！ (9月20日 1時) (レス) id: 9001ca60a4 (このIDを非表示/違反報告)
琉愛（るあ）(プロフ) - 最高の作品でした！！！完結まで書いてくださりありがとうございます！執筆お疲れ様でした。本当に本当に最高の作品をありがとうございます！ (9月19日 21時) (レス) @page47 id: abb9ea5a9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：mi | 作成日時：2023年8月2日 23時
