~ ページ33
｢音羽先生！新生児キットです！！！｣
｢死戦期帝王切開術を、はじめます。｣
渦高く積まれた瓦礫の壁の向こうで、
愛おしい声が微かに聞こえてくる。
貴方に、出会ってから。
死ぬことが怖くなった。
まだ隣で、生きていたいと願ってしまった。
貴方の隣で見る景色は、今までよりずっと眩しくて。
包み込んでくれる空気は、温もりと優しさに溢れていた。
彼を失った夜決めた覚悟は、ほんの少し揺らいでいた。
ねえ、やっぱり。
こんなときに意識が途切れてしまいそうなのは、
ちょっと調子に乗ったからかな。
このまま貴方と幸せに生きていけたらいいな、とか。
思っちゃったからかな。
ねえ、尚。
私の決断を知ったら怒るかな。
私らしいって言ってくれるかな。
わたしね、まだ貴方と生きていたかった。
でも、わたしは医者でいることを諦めたくない。
＿＿私は、あなたの医師としての在り方を、尊敬します。
だって、いつの日か貴方がそう言ってくれたから。
壁の向こうで聞こえる大好きな仲間たちの声に耳をすませると、とびこんできたのは弱々しい産声だった。
尚、さすが。
あとは、たのんだよ。
｢先生が居てくれてよかった。ありがとう。｣
｢ほんとー？うれしいな。よし、ちょっとチクッとするからね。｣
限られた資材の中、今の私に出来る最善策。
それは、
自らの怪我の応急処置を諦めてでも、
目の前の彼女を、そして他の患者の命を繋ぐこと。
私の命がその代償になったとしても、彼らの輝かしい未来を約束することだ。
どんな逆境の中に居ても、目の前の命からは決して目を逸らさない、そんな貴方と出逢えたから。
だから、
今にも途切れそうな意識をギリギリのところで食い止め、彼女に最後のひとつの点滴をうった。
あとは時間との勝負。彼らが助けに来てくれるのを待つだけ。
ほんのすこしだけ、身体から力を抜いた瞬間。
突き刺すような容赦ない痛みとともに、私の意識は一気に遠のいていった。
どこか遠くで、誰かが私の名前を呼ぶ声がきこえた。
ごめん。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 384人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Ria(プロフ) - とても素敵なお話でした この後の2人がすごーく気になりますが(笑) (11月22日 8時) (
レス) @page47 id: b18326fb22 (このIDを非表示/違反報告)
mi(プロフ) - 琉愛（るあ）さん» 琉愛様→最後までご覧頂きありがとうございます…！楽しんでいただけたようで嬉しいです〜！ (9月20日 1時) (レス) id: 9001ca60a4 (このIDを非表示/違反報告)
琉愛（るあ）(プロフ) - 最高の作品でした！！！完結まで書いてくださりありがとうございます！執筆お疲れ様でした。本当に本当に最高の作品をありがとうございます！ (9月19日 21時) (レス) @page47 id: abb9ea5a9e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mi | 作成日時：2023年8月2日 23時
