Episode 20. ページ8
-Otowa Side-
つい数ヶ月前にも運ばれた東京海浜病院のICU。
時刻はまもなく23時を過ぎようとしていた。
目が覚めた時、いちばんに声をかけたい。
ただその一心でひたすら彼女の手を握り続けた。
握っていた手が、僅かに動いたかと思えば、ゆっくりと瞼が開かれる。
｢気分は、、？大丈夫、、、？｣
何か話そうとする彼女の酸素マスクを取り外し、様子を伺う。
｢、、大丈夫だよ。｣
そう言って弱々しく微笑んだ。
｢ごめん。たくさん傷つけて。｣
｢ううん。｣
｢最終審査会でMERの必要性を白金大臣に認めて貰えた時、現場に向かう車の中で懸命に指揮をとるAの声を無線で聞いた時、喜多見チーフが走って助けに来てくれた時、やっぱり俺も医者でありたいと思った。｣
｢うん。｣
｢立場は違うし、また傷つけてしまうこともあるかもしれない。Aの夢をまっすぐ応援できない時が来てしまうかもしれない。でも、また隣に居たいと思った。もう一度、やり直してくれませんか？｣
｢、、、MERが解体したら別れるんでしょ？尚がちゃんとMER守ってくれたんだから。やり直すもなにもないよ。｣
可笑しそうに笑う彼女を見て、昨晩断腸の思いで離してしまった手をもう二度と離さないと誓う。
｢私ね、、高校生の頃から自分の人生にあまり執着してなかったの。生きる意味も目的も、何も無かったし、なんならはやく死にたいとさえ思ったこともあった。｣
｢、、、うん。｣
｢でも、尚と出会っちゃったから。
もう尚の居ない世界なんかで生きられなくなっちゃった。
隣に居てくれなきゃ無理なの。｣
彼女の言葉で、堪えていた涙があふれる。
｢、、約束ちゃんと守ったよ。｣
｢え？｣
｢生きて帰るって、言ったでしょ。｣
昼間、現場で交わした約束を思い出す。
｢尚、ただいま。｣
｢おかえり。｣
いつものように柔らかく笑う彼女を抱きしめ、戻ってきた幸せを噛み締める。
愛してる、と肩越しに呟くと
大好きな声が 知ってる、と返す。
時計の針は0時をまわっていた。
もう来ないと思っていた明日が、2人の元にもやってきたようだ。
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作者名：mi | 作成日時：2023年6月25日 23時
