Terminal ⅱ (ページ34)

今日:8 hit、昨日:101 hit、合計:70,308 hit

~ ページ34

暗く静まりかえる病院の渡り廊下。
コンビニのレジ袋の中には、ショートケーキとプリン。あとA先生が休憩中よく食べているチョコレート。
小さな声でミンさんと話しながら、2人の病室へと向かう。

先程比奈先生が点滴を打ちにいったからまだ起きているはず。
思いもよらぬハプニングが起きてしまった誕生日が少しでも良いものになりますように、と願いながら病室の扉に手をかけると、音羽先生とA先生の話し声が聞こえてきた。

「Aは寂しがり屋だから。Aより先には死なないよ。」

「ふふ、よく分かってるね。」

「ごめん、せっかくの誕生日。いい思い出にしてあげられなくて。」

「尚のせいじゃないでしょ？何言ってるの。」

メンバーの前では絶対に見せない、いつもより砕けた口調で話す2人の声に、何故だか胸が苦しくなる俺に対し、隣のミンさんは中を覗き込もうと扉を少し開ける。

ベッドサイドに座るA先生を自分の胸に引き寄せる音羽先生。
カーテンから漏れる月明かりに照らされながら映画のようなキスを交わす2人は、いつの日か彼らの家で目の当たりにした光景と重なった。

無意識に扉を握る手に力が入っていたのか、次の瞬間大きな音が響き渡る。

観念したような表情のミンさんと顔を見合せ、ゆっくりと扉を開いた。

「スミマセン、夜遅くに。」

「お2人とも、体調は大丈夫ッスか？」

「ええ、大丈夫です。ところでどうされたんです、こんな時間に。まだ病院に居たんですか。」

彼女を見つめる優しい表情からいつものポーカーフェイスに戻った音羽先生は驚くこともせずこちらに投げかける。

「せっかくのお誕生日、まだあと2分あるんで。これ、良かったら。」

そう言って俺はそっとレジ袋を差し出した。

「音羽先生も、A先生も、お大事にしてくださいネ。」

「邪魔してすみませんでした！おやすみなさい！！！」

俺らが心配していたようなことは無かった。
A先生は誕生日が台無しだなんて思っていない。
彼女にとって、音羽先生と過ごせることがいちばんのプレゼントだ。

やっぱり、敵わないなぁ。

夜勤なんデス！と言って医局に向かうミンさんを見送り、俺は密かに胸にしまっていた想いにもう一度蓋をした。