Episode 19. ページ4
-Your Side-
｢この患者さん、胸にドレーン入ってます。すぐに搬送お願いします！｣
MERメンバーが救護テントで処置を行っている頃、私は建物内に取り残された傷病者の手当てに当たっていた。
｢MERのAです！大丈夫ですか？｣
メインエントランスは、イベントの装飾や大きな照明が華やかに施されていた。
出火箇所から近かったこともあり、火災・崩落の被害をかなり受け、落下した装飾の下敷きになった人が助けを求める声で、現場は騒然としていた。
｢Aさん、もう点滴も輸血もないぞ！！｣
煙を大量に吸ってしまい朦朧とする意識の中、千住さんの声にはっとする。
ジャケットの裾を握りしめたその時、遠くから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。
｢A先生！！！！これ使って！！！｣
｢喜多見チーフ！！！！？｣
｢無線で聞こえてくるA先生の声に勇気を貰って、もう一度医師でいようと決めました。ここまで持ちこたえてくれて、ありがとう。｣
心強い味方が帰ってきた瞬間だった。
喜多見チーフから、追加の点滴や酸素を受け取る。
｢俺は千住さんたちと、爆発が起こったバックヤード側をみてきます。A先生は、ここで赤タグの患者さんの処置と搬送を！｣
そう言って走りだす彼の背中は、今までよりもっと大きく見える気がした。
もう大丈夫だ、少しほっとした気持ちを胸に目の前の患者に向き直る。
｢わかるー？ちょっと腕ちくっとするからねー？｣
機材に足を挟まれ動けなくなった子供に点滴を打ち、近くにいたレスキューを呼ぶ。
自力で動けない患者はこの子で最後。
無事救出されて運ばれていく姿を見届け、そっと胸を撫で下ろした、その時だった。
ふと天井を見上げると、いちばん大きな装飾が私を目がけて落下してきていた。
避ける間も、声を出す間も無かった。
ガシャーーーーーーン！！！！！
大きな音を立て、装飾は床に叩きつけられた。
長時間煙を吸いながら動き回っていた事もあり、衝撃と痛みに耐えきれずすぐに意識が遠のいていく。
ぼーっとする意識の中、倒れ込んだ時に放り出されたイヤホンマイクから、駒場室長が私の安否を確認している声が聞こえた。
｢っっっっっ！｣
必死に手を伸ばしても届かず、叫ぼうとしても何も声が出なかった。
全身から力が抜け、私の意識はそこで途切れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：mi | 作成日時：2023年6月25日 23時
