Terminal ⅱ (ページ30)

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待ちに待った週末。土曜日の朝。

17時までには帰る、と名残惜しそうに言い残して、今日も霞ヶ関に向かう彼を見送り、私は遅めの朝食を食べる。
いつもの休日と何も変わらない家事をこなし、撮り溜めていたドラマを見ていればあっという間に彼が戻る時間が迫っていた。

先日買ったドレスに袖を通し、綺麗に染め直したばかりの髪をアップにする。
お気に入りのバッグには、スタメンのリップとパウダー。
きっとディナーに行くだろうから、いつもの香水は振らない。
準備万端で鏡の前に立ってみれば、普段スクラブか白衣しか着ないような自分が、いつもより輝いてみえて少し嬉しくなった。

ようやく仕事を終えた彼の車に乗りこみ、たどり着いた先は横浜。
車を降りて隣を歩く彼も普段よりぐっと大人っぽくて、なんだか勝手に気恥ずかしくなる。

「さ、行こう。」

「え、？？？」

港に泊まっていた大きな船に乗り込もうとする彼を思わず引き止めると、

「クルージング。普通のディナーよりも、Aはわくわくするものの方が好きでしょ。」

彼はそう言って少し恥ずかしそうに顔を背けると、そのまま私の手を引いた。

横浜の夜景を眺めながら、フレンチを嗜む。
まさかこんなドラマみたいなサプライズ、彼がしてくれるなんて思ってもなかった。
食事を終え、デッキに出ると彼は満足そうな顔で私の頭を撫でた。

「似合ってるね。」

「ほんと、、？」

「うん、とっても。」

「ありがとう。凄く楽しい誕生日になった。」

「非日常、が欲しかったって。」

「え？」

「徳丸くんに聞いた。」

そう言うと、少し照れたような表情で視線を逸らす。

「俺ひとりじゃ、どうしたらいいか分からなかったから。」

「わ、わたしも。今日の服夏梅さんとミンさんに選んでもらったんだよ、！」

「次病院に行く時は、お礼言わなきゃだな。お互い。」

思わず顔を見合せて笑う。

「A、誕生日おめでとう。」

「ありがとう、尚。」

来年も再来年もその先も、彼の隣で歳を重ねられますように。

そう願って繋いでいた手に力を込めた瞬間、煌びやかな船内から大きな爆発音がした。

すぐにデッキまで、中の乗客たちの混乱した声が響く。

一瞬彼に目を向けると、瞬時に頷く。

医師としての覚悟を胸に私たちは船内に走り出した。