Terminal ⅱ (ページ28)

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「裕介、、あのね、、。」

「神田さん。彼女は今、私の恋人です。残念ですが、貴方の隣に居させることはできません。彼女と寄りを戻すことが目的なら、どうぞお引き取りください。」

焦って話し出す彼女の言葉を遮り、ドキドキしながらあまり自分らしくない言葉を投げかける。

「本当に、、、言ってますか、、？だって、、Aは、、、」

「ええ。彼女が辛い出来事を乗り越えてきたのはもちろん知っています。でも、私は記憶の中の彼を忘れさせたいのではなく、幸せな想い出として一緒に生きていけるように背中を押してあげたい。無理やり前を向かせるんじゃなく、手を取って一緒に進んでいきたいと思っています。」

「わざわざ辛い時の記憶を思い出させるっていうんですか。そんなの残酷じゃないですか。」

「彼女は貴方が思うほど弱くない。命の大切さを誰よりも知っています。だからこそ、彼のことを忘れたくないんです。」

気がついたら言葉が口を出ていた。

「神田さん、病室まで送ります。」

気を利かせた喜多見チーフがそう言って、呆気に取られた彼を連れて部屋を出る。
その途端、黙り込んでいたMERメンバーが一斉に話し出した。

「音羽先生、かっこいいじゃないですか！」

「キュンキュンですネー！！！」

「もう、どうなることかと思いました～！」

「さすがっスよ！音羽先生！いや、音羽統括官！！！！！！」

「ほらほら、皆さんこれは私たちが首を突っ込む話じゃないですから。」

盛り上がる5人を尻目に、涙を浮かべた彼女と目が合う。

「あの、ごめん。じゃなくて、ありがとう。」

「どういたしまして。あんまりしつこいようだったらいつでも追い返すから。」

またしても黄色い声をあげる女性陣。

「ミーティング、はじめましょう。」

普段通りのトーンでそう声をかけると、彼女がそっと耳元で囁いた。

「尚の言葉すごく嬉しかった。ありがとう。」

嬉しそうに微笑む様子を見て思わず自分まで笑みがこぼれる。

大学時代の彼女も、高校時代も、その前もどんな風に生きてきたかは知らない。
もっと早く出会いたかった。
もっと長い時間、隣で過ごしたかった。
そしてなによりも、苦しみの真っ只中にいた彼女に手を差し伸べてあげたかった。

でも、今の幸せを守ってあげられるのは自分だけだ。

それはもちろん、これから先も。ずっと。