Terminal ⅱ (ページ25)

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-Your Side-

「A！」

「伊織。」

今朝この病院に運ばれてきた彼の病室を訪れ、どのくらい時間が経っただろう。
1人でぼーっとしていたところに、伊織がやって来た。

「久々に顔を見れたと思いきや、こんなことになるとはね。」

彼女の言葉に黙って頷く。

もう何年も顔を合わせていなかった。
でも、彼の顔を見た途端、数年前彼と過ごした日々を昨日の事のように思い出してしまった。

「ま、無理しないで。また明日ね。」

伊織はそう言って病室を出る。

私も残った仕事を片付け家に帰ろうとした途端、眠っていた彼がゆっくりと瞼を開けた。

「裕介、分かる？」

「、、、A、、な、んで、、？」

ただただ涙を流して私を見つめる彼に、私は何も言えなかった。

神田裕介の意識が戻ったことを当直の医師に伝え、私は無事帰路に着く。

「ただいま～。」

当たり前のように帰る愛しい彼の家。

「おかえり、遅かったね。」

当たり前のように出迎えてくれる彼の表情はいつもより元気がないような気がした。

「ちょっと朝から立て込んでて中々帰れなかったの。ごめんね、先寝てて良かったのに。」

そう言った途端、彼は何も言わずに私を抱きしめた。

「尚、、、？」

「俺が会いたかっただけ。」

「そっか。待っててくれてありがとう。じゃあ私ご飯食べようか、、」

「A。」

私の声を遮り、彼の僅かに震えた声が響いた。

「うん？」

「好きだよ。誰よりも。」

「なに急に。私も好きだよ。」

「いや、言っておきたかっただけ。」

彼はおやすみ、と告げて寝室に姿を消した。

-Otowa Side-

一足先にベッドに入り目を閉じれば、昼間の看護師たちの会話が思い出される。

「しかもさ、A先生の方から振ったんだって。忘れられない人が居て申し訳ないから、って。」

「え～あんな美男美女でお似合いなのに。でもなんかA先生らしい理由だね。」

「そうそう、だから意外と彼の方は未練あったりして。」

彼女が忘れられない人。
それはきっと高校時代に亡くした彼。
大学に入ってもそんなに彼のことを想っていたのなら、もしかしたら自分も同じ結末に、なんて起こって欲しくない想像が頭をちらつく。

彼女がリビングの電気を消す音が聞こえ、何事も無かったかのように目を閉じた。