【2j3j】勘違いされる系Vtuberは気にしない【男主】

”彼女”が誕生した日 ページ2

彼女の突然の引退から約二年前。

鈴中Aはある事務所へ面接に来ていた。

「我が社を志望する理由を教えてください」

にこやかに質問してくる面接官にAは少しぎこちない表情で笑う。

絶対にこの割のいいバイトを逃してはいけないというある種の強迫観念とも言える感情にAは押しつぶされそうになっていた。

必死に目の前の面接官に受けのいい答えを探そうとするがなかなかいいものが思い浮かんで来ずに思わず唸る。

『あの、その、ごめんなさい』

結局何も言えず落ち込んで項垂れてしまったAに面接官はそっと声をかけた。

「Aさん、実はこの面接あなたしかきていないんです。書類選考の時点であなたの合格は決まっていました」

だから、そんなに悩まなくても正直に答えてもらっても大丈夫ですよ。そう続いた面接官の言葉にAはどれだけ安堵したか今でも忘れない。

「この面接は形だけのものなんです。こういうのやってみたくて」

面接官の男性は綺麗に並んだ歯を少しだけむき出しにして悪戯っぽく笑った。

朗らかな面接官の様子に今までの緊張がほぐれていき自然に笑みを浮かべる。

『ここで働きたい理由、少し長くなるんですが、大丈夫ですか？』

「今日はAさんのための時間をたっぷりと取ってるんです。いくらでも」

興味ありげに身を乗り出した面接官にゆっくりと自分の身の上話をすることにした。

面接官の表情がコロコロ変わってそれが面白くて少しだけ笑ってしまう。

ゆっくり時間をかけて話終わり最初と比べて随分と静かになってしまった面接官の顔を見上げる。

『これで終わりです。長い時間聞いて下さってありがとうございます』

はにかむように笑ったAの顔を面接官は穴が開くのではないかというほどじっと見つめる。

「……Aさん、僕頑張ります。これからよろしくお願いしますね」

やけに真剣な顔をした大人の男性になんだかむず痒くなるような気持ちが胸をくすぐった。

『はい、お願いします』

面接が終わり二人は固い握手を交わし別れた。

これからどうなるかは誰にもわからないがきっと何かが大きく変わる、そんな予感を感じる一日であった。




ちなみに面接官の男性は社長にあたる人物であったらしい。

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