夢･夏休み前夜 ページ24
夢主視点
暗い空間に一人、両手に双剣を持ち佇む。静寂に包まれ、自身の鼓動が微かに聞こえる…
(夢…)
そう理解し、瞬きをすると次には喧騒に包まれ、生臭い鉄錆の臭い、聞こえてくる悲鳴、自身の肌や服に伝う返り血や流れる鮮血。
(何をして…そうだ、兄の元へ…撤退しなければ、行かなければ…)
右脚には矢が刺さり、毒針を持っている左腕には何発もの銃弾が残ったままで血止めを拒む。視界も霞み、気を強く持たなければ倒れしまう…
『兄う「うわぁぁぁぁっ！！」
兄･吉継が陣を構える平地へ着くとかつて、兄の親友で私にも優しく接してくれていた高虎が、腹に短刀を突き立てた兄の首を叫びながら胴と切り離していた…
その時、確かに…兄は私に視線を合わせ柔らかく、幼き頃から変わらない笑みを残して逝った。
自然と両の眼から大粒の涙が溢れ出すが、近くにいた主無き駿馬を見つけ、乗り込みこちらに気づき名を呼ぶ高虎も構わず転がっていた兄の首を拾い上げ、西軍の本陣へと向かう。
毒針をしまい、片手と両足でしっかりと馬を動かしながら兄の微かに笑っている顔を隠すように、もう白とは言えない兄と揃いだった襟巻きで兄の首を覆い落とすまいと片手で持つ。
流れていた涙は風に飛んでゆき、裏切りなどで入り込んだ敵たちも気にせず一心不乱にただ本陣へ駆ける。
『三成!!西軍はほぼ壊滅、兄上も…ｸｯ。島津も退いた！毛利、小早川のせいで終わりだ！すぐに撤退を！』
「吉継…ｸｯ…」
本陣へ着き、馬から転がり落ちるように三成の後ろに降り状況を伝え、なんとか三成だけでもと撤退を勧める。が、三成は誰かを抱え座っていて既に涙を流していた。
『左、近…』
自身よりも多くの銃弾を受け、横たわる左近の姿にまた涙が流れ出す。左近も三成を逃がそうと盾になったのだろう。
『…三成、すぐに撤退してくれ。兄上と左近を休ませた後、私も追い付く…佐和山まで行けば、再起は測れる！だから…』
「A……絶対に、死ぬな」
私の表情を見て、決心が着いたのか私の抱える兄へ別れを告げ、私の乗っていた駿馬に乗り残った兵を連れて撤退を始める。
『紅、蒼。2人を椿と木蓮の木下へ…お前たちも逃げろ。最後の命だ』
「お頭様…」「御意に…」
ずっと付き添っていた部下にも、兄達にも別れを告げ撤退を拒まんとする東軍の前に立つ。
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