九話 ページ10
仁王「ずびっ…」
柳生「……!?」
鼻をすする音が聞こえ、私は慌てて仁王くんから身体を離した
仁王「ひっく……」
仁王くんは、泣いていた
柳生「わ、私何かマズいこと言いましたか!?」
泣く仁王くんなど中々見ないもので、私はどうすればいいのか分からずただ慌てることしかできなかった
すると、仁王くんの笑い声がした
仁王「あっははは、何慌てとるんじゃ」
柳生「仁王くんまさか」
仁王「嘘泣きに決まっとろうが、俺に抱き着いた仕返しじゃ」
べーっと下を出して、仁王くんは笑い私から背を向けた
柳生「私は本気で心配して__」
仁王「分かっちょる」
すん、と小さく鼻をすする音が聞こえた
仁王「その、ホントに感謝しとるんよ」
全く…さっきのは、本当に嘘泣きなのか怪しいですね
私は、仁王くんの背中にもたれかかりハンカチを手渡した。仁王くんはそれを受け取ると、静かに震えた声で話し始めた
仁王「怖かった……。Aが俺のことを恨んでるんじゃないかって…、守れなかった…俺を、生きてしまったこの俺を…」
柳生「…」
仁王「何度も何度も、前向きに考えようとした。だけど、その度に、Aが出てきた。なんで生きてるのかって」
トラウマとは…本当に恐ろしいものですね
背中越しに伝わる震えが、今までどれだけ苦しんでいたかを物語っていた
あの仁王くんをここまで追い詰めさせるだなんて
いや、仁王くんだからこそ、優しい仁王くんだからこそここまで追い詰められたのかもしれません
柳生「こんな優しい仁王くんをAさんが恨んでいると思いますか?」
仁王「俺は、優しくなんか」
柳生「優しくない人が、皆のために自分を殺して演技なんかしませんよ」
仁王「…幸村には悪い事をした。きっと自分を責めとる」
柳生「ええ。だから、言いに行きましょう。自分はもう大丈夫だと」
仁王「そう、じゃな」
柳生「何かあったら話してくださいね。いつでも聞きますので」
仁王「ありがとな。柳生。おまんが居てくれて助かった」
柳生「今日の仁王くんは素直ですね」
仁王「そんな日もある」
柳生「ふ、そうですか」
仁王「Aは、本当に俺を恨んでないじゃろか」
柳生「ええ」
仁王「…そうか。今はそれだけ聞ければ十分じゃ」
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作者名:けさし☆ | 作成日時:2021年4月2日 16時