夜もすがら 【仰げば尊し】

３５話 ページ40

裕人side


あいつはいつだって辛そうだった。


俺や蓮が吹奏楽部に入るまでは全く気にならなかったけど

入ってからは、いつも決まって悲しそうな顔をする。

あいつは、たぶん 天才だ。

あいつのペットはいつだって真っ直ぐで綺麗で優しい音だった。


昨日の明宝のやつに いろいろ言われた時や
ついさっきの先生に海外留学の話をされた時
Aは 昔のことだからと言った。


Aは…昔の俺らみたいに 音楽をすることに対して戸惑いを感じてる。

俺には到底わからないような悩み。


Aがトランペット上手いと言われた時
ありがとうと言いながら、嬉しそうな顔をしないのはそういうことだろう。


「A……」


『トイレにいってくる』


そう言って出てったA。

追いかけるべきか、と足を踏み出すと

安保が止める。


安保「ごめん…俺に任せてほしい。
後で全部話すから」


心配だったのは蓮たちも同じだったらしく、
みんな食堂から出ようとしていた。


安保は……Aの幼なじみだっけか。

なら、あいつの気持ちわかってやれるよな。


いつだってあいつになにかあった時 俺が助けに行ってたけど


今は俺の出番じゃない


「行ってこいよ」


その言葉と同時に走り出す安保。


木藤良「裕人のことだから、無視して行っちゃうんだと思ってた。」

「そんなんしたって意味無いだろ」

木藤良「でも好きでしょ？」

「……蓮」


.


内心びっくりしていた。


俺は自分ではわからずにいた。


いや。わかりたくなかったのかもしれない


「だとしても、今は俺が行くとこじゃねぇから」


木藤良「…そっか。」


今思えば 階段でキスした時 Aは静かにさせるためにキスしたんだと思ってるけど

違う。

俺の事見つめるあいつの顔を見てると、
気づいたらしていた。


.



俺はAが好きなんだ



木藤良「応援するよ？」

「でも蓮…お前だって」


蓮だってあいつのこと気にかけてることぐらい知ってる。


木藤良「俺、裕人に何もしてあげられなかったから。
裕人なら、Aちゃん任せられるしね？」


「……ありがと。」



本当はもっと言いたい事があった。


でも、口から出たのはたった四文字。


でも、蓮は充分だと言うように笑った。


.



俺はいつまで蓮に支えられてやってくんだろうな。



「A……」

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