*続 ページ20
「いやいやいや、おかしくないですか?腹立ちません?だって、自分は仕事してるのに相手は遊んでるんですよ?」
「え?だって残業代は出るし……やるって決めたのは私だからいいかなって」
お人好しにもほどがある。彼女は、騙されていて尚、その人を咎めるつもりもなければ怒りすらない。その部分のピースを拾い忘れたロボットのような、何処か人間らしからぬ言動だ。
確かにコネシマ先輩が気にかけるのもわかる。
彼女は危うい。このままではほいほいと騙され、泣くはめになるだろう。寧ろ今までこのゆるさで無事に生きてこられたのが不思議なくらいだ。
それから、彼女からは目が離せなかった。最初はもちろん騙されないよう監視の意味で。でも、いつからかそれが好意にかわっていった。……庇護欲でも掻き立てられたのだろうか。
だが、彼女は俺のことを後輩くん、後輩くん、と呼ぶだけでとくに意識しているわけではなかった。にこにこと誰にでも愛想がいいのは悪いことではないが、自分が彼女にとってただの後輩であることが気にくわなかった。我ながら子供じみた感情だが、生憎そういう性格だから仕方がない。
そして、その苛立ちをぶつけるように彼女に我が儘を言った。
名前で呼んでくれないと仕事しません、と。
はじめは何をいっているのだろうと冗談として流していたが、本当に手をつけなければ、彼女は二つ返事で了承してくれる。……彼女の優しさに、漬け込むような真似をしたのだ。少し前の自分の言葉がブーメランだが、面倒だと思われても彼女に意識してほしかったのだ。少しでいい、ほんの少し、“生意気で悪戯好きの後輩”と思ってくれればそれでよかった。
そして、それは功を成したのだ。
何をしても、とまではいかないが、今でも大抵のことは許してくれる。さっきだって、拒絶を言葉にすらしなかった。やろうと思えば振り払えた手も、場所も、移動しようとすれば出来たのに。スマホを弄っていただけで、俺を本気で追い払おうとはしなかった。
彼女は俺の話を聞いていないようで、しっかりと聞いてくれるし考えてくれる。だからこそ、そのままでいてほしいという言葉が効く。きっとそれを意識しすぎて、そのままでは居られないだろうと踏んで告げたのだ。
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妄りんご(プロフ) - 兎危@緑君は天使です。これ絶対←さん» いえいえ、そこまで気にされなくても大丈夫ですよ…!全て見ていただけているんですね、嬉しいです!これからもどうぞよろしくお願いします!!! (2018年8月3日 10時) (レス) id: 61fbf2f6bb (このIDを非表示/違反報告)
兎危@緑君は天使です。これ絶対← - 妄りんごさん» そうですよね、すみません。りんごさんが謝ることじゃないです。私の我が儘なので...妄りんごさんの作品は全て見させて頂いているので、これからも応援してます。無理な事をお願いしてしまい申し訳ありません (2018年8月3日 9時) (レス) id: 83b7e38493 (このIDを非表示/違反報告)
妄りんご(プロフ) - 兎危@緑君は天使です。これ絶対←さん» コメントありがとうございます!折角のお申し出ですが、皆さまの混乱を防ぎたいのでご遠慮させていただきます。申し訳ない…。 (2018年8月2日 22時) (レス) id: 61fbf2f6bb (このIDを非表示/違反報告)
兎危@緑君は天使です。これ絶対← - 「ただそれだけのために」がとても印象的です。是非とも書いてみたいのですが...やはりダメでしょうか。私の文才で書けるとは言い切れませんが、とても書いてみたいなとおもう内容でした。没にするのは勿体無いほどでした。是非、書かせていただきたいです (2018年8月1日 20時) (レス) id: 556657c7c7 (このIDを非表示/違反報告)
妄りんご(プロフ) - ゆずもちさん» 学生の数年でしか経験できないものの尊さをあらわしたかったんですが、伝わったみたいですね。よかった!鬱々としているもののほうが書いていてしっくりくるんですが、ほのぼのをかけていた当時を思い出しつつ頑張りました!楽しんでいただけたようでなによりです! (2018年2月15日 21時) (レス) id: 0d5cadda90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:妄りんご
作成日時:2018年2月13日 19時