34、邂逅�� ページ38
.
幹部の愛人の不倫相手の子どもである俺は、父の手ひとつで育ってきた。
それもその筈、母さんは表面上はマフィアの妻である。
闇の世界に関わらせてはならない。
きっと、子を持つ親なら誰でもそう思うだろう。
それ故に、母さんと面識があるのは数えるくらいしかなかった。
「衛彦、元気にしてた？…あら、また身長が伸びたのね。
見ないうちに少し文紀さんに似てきたわね、ふふ」
母さんと会うたび、緊張していたのを覚えている。
絹のような、しなやかで美しいブロンドの髪。
瞳は吸い込まれるほど、綺麗で潤んだ宝石のような翡翠色。
影を落とすほど長くて上品な睫毛。
傷を知らないくらい白くて、ベールに包まれたかのような肌。
そんな母さんがふわりと俺に笑いかけながら、優しく頭を撫でてくれた感触は数回ほどだったが一生忘れられない。
鼻をくすぐったカモミールの香りも、Aが花を育てるたびに、母さんのことを何度も思い起こさせるほどだ。
「衛彦。あなたにはね、妹がいるの」
「妹？」
五度目の再会だったろうか。俺が12歳の時だった。
さすがに10も越えて入れば、母さんの腕の中で撫でられるのは少々恥ずかしい年頃になっていた。
そのため、クッキーを並べたテーブルを境に、大きなソファに座って互いに向かい合ってお茶をしていた。
それでも、母さんは呟くように言った。
「私と同じ金色の髪で、翡翠色の瞳。
あなたも母さん譲りの翡翠色の瞳なのだから、お揃いね」
「…そう」
ぶっきらぼうに返したが、驚き故であった。
そしていつも話題を盛り上げる母さんが、まるで独り言だったかのように、この話はここで打ち切られた。
少しの間黙ってしまった母さんは、窓の外に視線を向けたと思えば、何かを憂うような表情になって瞳を潤わせていた。
「雨が降るようね。冷えるから、今日は温かくして寝るのよ」
そう忠告された時には、いつもの優しい母の顔に戻っていた。
△▼△
「衛彦…。お前には妹がいる」
「知ってる」
その晩に、久々に焼酎を開けた父さんが真っ赤な顔で、テーブルに項垂れながらそうぼやいた。
執事職に就いていた父さんは、見た目から紳士できちっとしたイメージが濃いが、酒が含めばそこら辺にいる素朴なサラリーマンと変わらなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 39人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ラザニア太郎 | 作成日時：2021年12月21日 23時
