晩秋の夜と貴方と⓶ ページ8
.
副隊長にお守りの任を押し付けられ、残されたのは私とのぼせて弱った彼女のみ。
Aさんは体調が悪そうにうめき声をあげていた。
2人きり、という彼女を苛め…いや、距離を詰めるのに絶好の状況ではあるが、弱る女性を無理に襲うという行為は私の良心がギリギリ許さなかった。
それに公衆の面前でもある場所で、そのようなことをしたら公務員として如何なものだろうか。
「…Aさん、大丈夫ですか？」
「ゔ…ぁ、条野さん……どうも、こんばんは…」
掠れた彼女の声が若干熱を篭っているようで、小さな下心が芽生えかけるも平常を保った。
クッションベンチに横たわる彼女の隣に腰を掛け、頰に自分の手を優しく当ててやると、尋常でない熱が伝わってくる。
「…条野さんの手、冷たくないですね……」
「それはまぁ、先程私も湯に浸かりましたから」
彼女は当てられた私の手が冷たいことを期待していたらしい。
ふと、彼女の熱を冷ますためにある提案が浮かぶ。
「少し外を歩きませんか？」
「無理です…立つ気力ないです…」
「いいですよ、私が抱いて行きますから」
「…ぇ、抱い…？…え？」
私の言葉を婉曲的な意味で捉えたのか、将又与えられた言葉を処理できる脳がのぼせて弱っているせいか。
混乱する彼女を横目に、彼女の膝裏と背中に腕を回して持ち上げる。
さらに密着した身体からは、のぼせた体温が充分に伝わってきた。
△▼△
外へ出ると、乾いた風が水分を失って落ちた紅葉のほろ苦いような匂いを運んだ。
風と言っても微弱なものであり、視力を失って他の感覚が優れている私にとって敏感に感じられるものである。
そんな風を感じていなくても、この冷たい空気なら彼女の容態も落ち着くだろう。
なすがままに連れて行かれた彼女の体温が、心なしか下がっているようだ。
「少しは落ち着いたでしょう、連れてきて正解ですね」
「はい…ありがとうございます。…ので、もう降ろしても平気ですよ」
「……」
「いや、その…降ろしても…平気って……」
容態が落ち着いた彼女は、また別の意味で体温が上昇しているらしい。
戻った思考も羞恥心で満たされて、何とかしようとしても私には敵わないことを知っているから、半ば諦めかけているのだろう。
感情の起伏が忙しいようで何よりだ。
やはりAさんは面白い。
どんな仕草も私を飽きさせることがない、見ていてただ愛おしく思う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ラザニア太郎(プロフ) - ましろさん» 文スト4期おめでとうございます〜！声優さんも楽しみですし、猟犬以外にもあのキャラこのキャラのあんなシーンが見られるとずっとドキドキします…^ ^ 鐡腸さんも条野さんも��子さんも隊長も全部全部楽しみです！ほんとに待ち遠しい…^ ^ (2022年5月20日 16時) (
レス) id: 24908c6af5 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - わかってくれますか笑！あと文スト4期おめでとう！ついに鐵腸さんが猟犬が来るねー笑 (2022年5月20日 1時) (レス) id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
ラザニア太郎(プロフ) - ましろさん» 初めまして、コメントありがとうございます！確かにそうかもしれません笑 私としても天然なイメージが強いですね…^ ^でも正義という言葉に忠実であり、芯があって強いところが本当に魅力的だと思います！！ (2022年5月20日 0時) (レス) id: 24908c6af5 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - なんか鐵腸さんって冨岡さんに似てる笑 天然なとことかめっちゃ強い所とか！ (2022年5月20日 0時) (レス) id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
ラザニア太郎(プロフ) - ニゲラの蕾 兼 新芽さん» お久しぶりです^ ^喜んでいただけたようで何よりです！新しい大学生活で死ぬほど忙しくてネタすら思い浮かばず、そもそも小説のこともド忘れしていました…汗ですがGW中に少し暇ができたので書いてみました！相変わらず亀更新ですがご愛読していただければ幸いです^ ^ (2022年5月5日 17時) (レス) id: 24908c6af5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ラザニア太郎 | 作成日時：2021年11月14日 18時
