10話 ページ12
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パチン_________。
徐々に伸ばされる彼女の手を邪険に払った。
か細い音だったが、鼓膜の中に長く留まって響いた気がした。それが更に苛立ちを加速させる。
彼女が今どんな気持ちかなんて知らない。気にしていられる筈がなかった。
ただただ、苛立ちに任せて言葉がしとど溢れてくるばかりだった。
「私の目になる?冗談なら二度と言わないでください。非常に不愉快です」
「っ、ごめんなさ___」
「気遣いは不要だと言った筈です。一体何のつもりでその手を差し出したんですか?
あぁ、確か困っている誰かを助けたいだとか、そんな明け透けな夢を抱いていると仰っていましたね。こういうことでしたか。全くいい迷惑で、甚だ烏滸がましい」
彼女の心音が次第に大きくなっていた。その心が裂けて割れるような音である。
人の精神を痛ぶり愉しむことはあるが、今に関しては良い気分になれない。
一度彼女が私を下に見て親切にしようとしたその行為が到底許せないのだ。同情なんて更々ない。
「貴女のくだらない夢とやらに、私を巻き込まないでください」
「______っ、」
とどめの言葉に涙を呑んだ音がした。
うんざりだ。この程度のことで傷ついているのなら、軍警など向いてないだろう。
隊長は何故、こんな人を_________。
何度目かわからない溜息を吐いて、市警の中に入っていくのだった。
△▼△
「待って、ここ段差あるから気をつけてください!」
「階段ですよ、注意してくださいね」
「えっと…、こっちを右みたいです!」
「あぁもうわかってますよ!あとここは左です!!」
「えぇ?!ごっ、ごめんなさい!」
あの泣きそうになっていた貧弱な精神は何処へ行ったのか。
彼女は手を振り払われた分、別の方法で私をサポートしようとしたのだろう。その結果私を巻き込んで迷子になってしまっていた。
怒りを通り越して最早呆れる。どうしてそこまでするのか。
だがあれ程まで叱責されたにも関わらず、私の為に一生懸命になる彼女を見ていると、もう何も言う気になれなかった。
「ちょっと人に聞いてきますね_____あっ!?」
「!」
何もないところで、彼女は自らの脚を引っ掛けて転びそうになる。
不味い、このままでは顔から倒れてしまう______。
「_____あ、あれ…?痛くない…?」
「…気をつけなさい。そんなに慌てなくてもいいですから」
気がついたら、私は彼女の手を強く引いていた。
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とっふ - わぁ……夢主ちゃん可愛い…最高ですね! (1月3日 17時) (レス) @page2 id: 521a35a539 (このIDを非表示/違反報告)
るぅ - 最高です!続き楽しみにしてます!! (9月21日 20時) (レス) id: 2822ecfe2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラザニア太郎 | 作成日時:2023年3月27日 22時