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俺が見つけたと同時にこっちを向いて気づいてくれた彼女は元気よく手を振ってきた。格好は先程と変わっていないが、綺麗に結われていた髪は下ろしていて風が吹く度にゆらゆらと揺れていた。
「そろそろ帰るの?」
「多分まだかな」
「てっきり帰るからこっち来たのかと思った」
そう言ってくしゃりと微笑む姿は相変わらず幼いのに耳に髪を掛けている仕草は妖艶で、気づかれないように海へと視線を逸らす。
「綺麗でしょ、この時間の海も」
「うん。黄昏時もまた綺麗」
「すぐそうやって難しい言葉使うじゃん!」
「はあ?別に黄昏時ってそこまで難しくなくね?」
「これだから東大生は」
「………何で俺が東大生だって知ってるの」
目を細めてわざとらしく嫌な顔をされた。やっぱり俺のことを知っている。そんな素振りを見せられたら聞かざるを得ないだろう。
だが俺が聞くことを待っていたかのようにニヤリと笑って指をさしてきた。
「その赤髪!テレビで初めて見た時からインパクト強くてすぐ覚えてた」
「…そう」
「名前もちゃんと知ってるよ?乾でしょ」
「そんなドヤ顔で言わなくてもいいよ」
自分から聞いたのにいざ知ってもらえていると分かると少し恥ずかしくなってしまって微妙な反応しか返せなかった。多分彼女はそんなこと気にしていないと思うけど。
「…じゃあそっちも名前教えてよ」
「あ、私?AA。言ってなかったっけ?」
「今初めて聞いたし」
いつ聞こうかと探っていたはずなのにいざ彼女と話すとペースに飲み込まれて自然と言葉が出た。
「いくつ?」
「ハタチ」
「マジ?」
「どんだけ年下に見られてたの?」
「生意気なガキだと思ってた」
「ひどい!」
無邪気に笑ったり目を見開いて驚いたり、素直な表情があどけなくてもっと年下だと思い込んでいたが、確かに時々垣間見えていた妖しさは20歳と言われれば納得がいった。にしても俺と1つ違いって。
「おーい!乾ー!」
少し遠くから呼ばれて振り向くと皆が帰る準備をしていた。このタイミングでかよ。やっと彼女のことを少しだけ知れたのに。
「乾。」
俺の名前を呼ぶ人が違うだけでこんなにも変わるのか。再び彼女の方を向くと突然何かを渡された。
「また来てね!」
何これ、と言わさぬまま背中をぐいっと押された。振り返ると満面の笑みで大きく手を振っていた。
「ありがとう」
また行くよ。だって君にお返しをあげなくちゃ。笑顔で振り返す手の中には君から貰った小さな珊瑚があった。
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