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ドアについた鈴がチリンチリンと鳴る。
俺は言われた通りに断捨離を終え、Aの時計屋にやってきた。
伊「Aどう?その時計直りそう?」
声をかけても真剣な眼差しのAはこちらを向いてくれない。
完全に集中しているようだ。
俺はその姿を横目に奥にある休憩室でコーヒーを2杯淹れた。
彼女の分はブラックだ。
「よし、直った!」
Aのその声を合図に、マグカップをテーブルに置いた。
時計を見ると、確かにさっきまでぴたりと止まっていた針がしっかりと時を刻んでいる。
伊「お〜!さすがA!相当の年代物だけどやっぱり難しいの?」
「最近の時計より時間はかかるけど、その分燃えるから」
嬉しそうな表情のAはやはり一段と可愛らしい。
ふとテーブルを見ると、布巾の上に黄金色の小さな粒が乗っていた。
それも数え切れないほど。
伊「これ・・・なんだ・・・?」
「私も分からないの。でもこれが入ってたから、時計が止まっていたんだと思う」
彼女が言うには後から入れられたものらしく、恐らく時計の中に隠したのだろう。
わざわざ時計を壊してまで隠すもの。
高価なものだろうか。
ならばこれは・・・。
伊「ひょっとして・・・金・・・とか」
「言われてみればそうかも・・・!」
布巾で汚れを拭ってみると、少しだが黄金色に輝いた。
やはり、これは金だろう。
「もしかしたらお守りかもね」
伊「七宝的な感じか」
宝の霊力が身に付けている者を災厄から守ってくれる七宝。
金はその内の一つだ。
普段から身につける時計の中なら、お守りとしても最適かもしれない。
「ねぇ拓司さん」
伊「なに?」
「この金・・・お揃いで素敵なお守りにしない?」
Aは金を一粒摘んで俺の人差し指に置いた。
なんて良い提案だろう。
指輪なら違和感なく付けられるだろうし、何よりお揃いか。
素直に心が踊る。
伊「いいね、金細工してもらおっか」
「そうしましょ」
数日後、出来上がった指輪を二人で嵌めた。
彼女の笑顔も、金の指輪でより一層引き立つ。
オフィスでお揃いをからかわれたのは、また別の話。
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