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「雨、お嫌いですか?」
「え」
特段と惹かれるよう話術でもなかった筈だっ
た。
此方を覗き込むその視線が合うことはなく、彼女は胸のあたりをじっと見つめている。
まるで自分の内面まで、ありありと見透かすような仕草だった。
何故かその問いに、その姿勢に、「答えよう」とする心が確かに浮かび上がる。
「嫌い……なので、しょうか。わかり、ません。天候の嗜好に意識を置いたことが、あまりないもので」
女性は前屈の姿勢のまま目を細めて、「そうですか」と一つ、微笑を溢す。
「実は私もないのです。けれど」
そこで徐に言葉を止めると、彼女は一つ二つと踏み出してスコールの中に紛れた。
黒髪の先が雨に打たれ靡き、銀のミュールが水面を更に揺らす。
全てを拒むような冷たいそれが、彼女に対しては包み込むような、優しい色をして漂うのだった。
「雨は、冷たいものですね」
振り返る儚い笑顔が、光に包まれた。
後光は天の使いが誘うよう神々しいものでは
なく、ガソリンの匂いを揺蕩わせたヘッドライト。
疑問などを背負った己を嘲笑い置いていくかのように、現実の流れは突き放す。
何の説明もされていない、何の理解も得ていない。
押し付けられた非日常の処理を無責任に擦り付けられながら、眩しさに思わず目を瞑った。
「……河村?」
目を開けて、懐かしい暖かな声に安堵して。
其処に居たのは、オフィスの扉を開けて此方をまざまざと見つめる福良だった。
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