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まるで2人だけの世界だと錯覚していた。お前も焼きそばでいい?と横から話しかけられて我に返った。

「焼きそば人数分ですね!かしこまりました!」

さっきまで俺にだけ向いていたはずの視線が逸れて愛嬌のある笑顔が友人たちに振り撒かれる。
どさくさに紛れて話しかけた自分がいけなかったな。今はあくまでも客と店員。また頃合を見計らってゆっくりと話そう。すっかり渇いてしまった唇を潤すためにコップへと手を伸ばし口をつけた。

「───すごい綺麗な赤髪で、私の大好きな珊瑚みたいだなって思ったから。それだけだよ」

オーダーを取り終えた彼女は去り際に目が合ってそう言った。大声で笑いながら会話を弾ませるアイツらには全く聞こえない。口に含んだ水をゴクリと飲む音が鮮明にして、やっぱり俺たち2人だけの世界になった気がした。

.

さっきまでのことが夢だったんじゃないかと思うほどその後彼女の姿を見つけることが出来なかった。

「これめっちゃ美味くね?」

「えっ!ラムネですか?!ありがとうございます!」

焼きそばは確かに美味かったし、サービスでくれたラムネはとても冷えていて全身に染み渡った。

「あの…」

料理をサーブしてくれる人が目の前を通る度に目で追っては勝手に落胆し続けて早1時間。日帰りのつもりで来ていたから誰もアルコールは飲んでいないのに食べては喋ってを繰り返していたら時間はあっという間にすぎていた。

「どうしました?」
「えっと…その……」

こんがりと焼けた肌がよく似合う優しそうなお兄さんに勢いのまま話しかけてしまって目が泳ぐ。
あの人と話せますか、なんて口が裂けても言えないし、そもそも俺は彼女の名前すら知らないことに気づいて為す術もない。
その内俺たちの誰かがそろそろ帰ろうかと言い出すだろう。そうなったらそれまでだ。

「日が陰ってきていい眺めですよ」

なんでもないです、と言葉を発する前に海を指さして言われた。振り返ると視界一面に広がる海が昼間とはまた違った景色で綺麗だった。

「…ちょっと、見てきてもいいですか?」
「もちろん。スマホでも綺麗な写真が撮れますからオススメです」
「ありがとうございます」

椅子を引いて立ち上がるが、話に夢中になっている皆は気づかない。気づいても自分には興味のないことだと見向きもせずに会話に花を咲かせている。

「…いた」

砂浜を歩いて数十歩。数メートル先に1人で海を眺めている彼女を見つけた。

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作者名:天才作者様達 | 作者ホームページ:  
作成日時:2021年8月20日 21時

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