瑠璃の残光_fkr ページ16
ふわりと鼻腔をくすぐったのは、夏の匂いだった。
じわりと肌をべたつかせる嫌な暑さと共に、煙の匂い、焦げたソースの匂い、アルコールの匂いが飛び込んでくる。祭りを楽しむ人々の匂いに溶け込んだそれらは、どうしようもなく夏の匂いだった。
ゆっくりと、ただまっすぐ歩く僕の前を、高校生と思われる浴衣姿のカップルが、初々しく手を繋いで歩いている。幼い子どもは屋台を見つけて駆け出して、そのカップルと俺を追い抜いた。
匂いも、視界も、全てがうるさかった。
騒がしいのは嫌いだ。
人が多いのも嫌いだ。
だからこんなとこ、来たくなかったんだ。
そう思っているのに、足は止まらない。何かを探しも止めるように、たださ迷っているかのように、ひたすら前に進み続ける。
自分はなぜこんな、ところにいるのだろうか。
キツく目を瞑って、深呼吸して目を開ける。
隅っこの屋台。子供と大人が混じって、5 人ほどが並んでいるわたあめの屋台。
そこに、彼女がいた。
橙色の光に当てられた彼女は、白い生地に藤紫の藤の花が描かれた浴衣を身にまとい、紫苑色の帯を着けている。3 色のわたあめを受け取って、ハーフアップの髪を揺らしながらこちらを向く彼女に、嫌でも胸が高まってしまうのを感じた。
そしてようやく思い出す。
あぁ、俺は彼女に誘われてここに来たのだ、と。
「待たせてごめん」
「いいよ、待つのは得意だから」
3色のわたあめの1番上を頬張りながら、彼女は笑顔で応える。
「拳が来てくれて嬉しいよ」
へら、と目を細めてから、Aは俺の半歩前を歩き出す。手を繋ぐような間柄でもない。あくまでも仲の良い、ただの友人。いつも通りのその距離感が心地よかった。
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