兎にも角にも。 (ページ45)

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早朝｡携帯の着信音が鳴る｡

周りを起こさないように外に出て、3度目のコール音の後に応答ボタンを押す。

『…もしもし｡おはよ』
《遅い｡いつもなら1コールで出るだろ》
『しょうがないじゃん、合宿中だから外に出てきたの』
《……》

『そっちはどう?夏バテとかしてない??』
《俺を舐めるな｡体調管理は当たり前だ》
『はいはい、そうでしたねー』

うんと伸びをして空を見上げれば、朝日が眩しくて目を細める｡"冬はつとめて"って言うけれど、夏の早朝もなかなか趣深い｡彼も同じ空の下にいると思うと、なんだか不思議な気持ちになる。

『私、今東京に居るんだ｡まぁ今日で帰るんだけど｡1人で外出できるようになったし､また久しぶりに何処かで会おうよ』
《……都合が合えば》
『やった！じゃあ楽しみにしてるね』

今までは長期休みに偶に会いに行っていたけれど、中学の間は色々あって1人で外出する事が難しくなったのでしばらく会えていなかった。だけど普通の女の子に戻った今ならまた彼に会いに行けるかもしれない｡

もし夏休み中に都合が合わなくても冬休みがあるし、春高で全国に行けばそこでも会えるかもしれない｡凄く楽しみ…!!

『月バリ見たよ〜｡すっかり雲の上の人ですね〜佐久早選手?』
《……なんだその呼び方は》
『え〜?だってさ、大好きな友達が月バリ載ってたらびっくりするじゃん｡女の子は運動出来る人が好きだし、私みたいなモブは身を引きます……』
《引くな｡お前以外の女なんか想像したくもない｡変な菌でも付けられたらどうするんだ》
『なになに、私しか見てないって？やだもう臣くんったら♡』
《……》

『冗談だって。…あ、そろそろ皆んな起きてくる頃だから切るね｡練習頑張ってね､"全国三大エース"!!』
《…一言余計だ》

通話終了ボタンを押し､携帯をポケットに入れる。そろそろマネージャーの皆さんが起きて朝食の準備をするだろうし、早く戻らなくちゃ。

『臣くんに会えるの、楽しみだなぁ〜…』
?｢なぁ､今のって"関東のサクサ"か?!｣

……ん？

後ろからガッ!と肩を掴まれ､後ろを振り向いて見ればワクワクとした顔の男子がこちらの顔を覗き込んでいる。確か…梟谷の4番さんだっけ。

梟谷といえばかおりさんと雪絵さんが昨夜なにか言っていたような……｡

白「"関東のサクサ"と知り合いだって事､絶対選手に言っちゃダメだよ。特に…ウチの4番にはね｣

『……あ"』

やらかしたかも｡