「俺といもうと」× 橙 ページ4
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誰かがすすり泣く声で目が覚めた。
いや、誰かじゃない。
Aやと気づいた瞬間、まさに飛ぶようにベッドから起き上がった。
「....あっく〜んっ、」
「どないしたん、怖い夢でも見た?」
同じ干支、つまりひと回りも年が離れている。
母親が違うばかりに顔立ちも全然違うけれど、夜泣きに頼ってくれるくらい、兄としては慕ってもらえているらしい。
「どないした? 怖い夢見た? .....ん? あ、補聴器ついてないからか。 返事ないと思ったわ。 よし、Aのお部屋行きましょか」
ひょいと抱えた身体は、最近まで赤ちゃんやと思ってたのに、明日でついに小学生となる。
早いもんやと思う心は、どちらかというと兄というより親。
大好きなスヌーピーに囲まれた可愛い部屋は、俺のパジャマまでもをそれにするほど侵食していて、
ベッドに座らせたことで気付いたのか、泣きながらもつんつんと俺の腹元を触ってくる。
「お耳つけていい?」とこれまたスヌーピーの補聴器を見せれば、涙ながらにこくこくと頷いてくれた可愛いお顔。
補聴器をつけたとて完全に聴こえるわけじゃない。
言葉も真正面で向き合い、大きく口を動かすことで伝えられる。
「泣いちゃってるの、なんでかな?」
「.....ないちゃった、」
「泣いちゃったね? なんでやろ、おばけさん見た?」
「.......みてない、」
「見てないか。 んー、ほならなんでやろうね? 怖かった? 悲しかった?」
また涙にゆがむ顔。
抱きついてくるその手を取るも、これじゃ会話はできない。
夜泣きを頼ってくれたからには、解決してあげたいのに。
でも、そう思った瞬間、もしかしたらA自身もそれをもどかしく感じているのではないかと気づいた。
耳が聞こえづらいばかりに、増えづらい語彙力が複雑な感情を補いきれていないような。
何かに不安を感じているけれど、それをうまく表せない。
それを俺がうまくわかってあげられていないから、それで余計に不安になってるんやとも思う。
「A、明日から小学校やね?」
「.......いちねんせ、」
「そう、一年生。 たくさん不安もあると思うけど、その分助けてくれるひともたくさん増えるから。 自分で助けて!って言いに行くんやで?」
手が増えれば、きっと掴めるチャンスも増えるはず。
Aの部屋で夜を明かした。
ただただ、Aが笑える明日を願うばかりやった。
(俺といもうと × 橙)
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望 穂(プロフ) - 最近また更新頻度高く茉都香さんのお話読めるの幸せすぎます。書き手続けてくださって本当にありがとうございます‥! (2023年3月22日 20時) (レス) id: b8ce30f811 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2023年3月21日 11時