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side.O
救急車に乗せられた翔くんを追い、へばりつく様にして椅子に座る。
いつも白い翔くんの肌が今日はやけに白く感じる。
開く事のない目。優しい顔をしているのにその顔の殆どが酸素マスクに覆われ、俺は言葉を失った。
「お名前教えて頂けますか？」
「大野智です」
「どういう状況でしたか？」
「停電で部屋が真っ暗で…翔くんの声が聞こえなくて、リビングに入ったら倒れて、たんです」
「そうですか。分かりました」
救急隊員が翔くんの容態を確認しながら俺に質問を繰り返ししきりにメモを取る。
俺はその質問にきちんと答えられているという自信もなく、今この瞬間すら偽りだと思えた。目の前の翔くんがどうしても現実だと思えなかった。
「櫻井さんは通院されてるようですので、今そちらの病院に搬送してます」
「へ？」
思わず救急隊員の言葉に耳を疑う。
そんな俺を見て驚いた顔をする救急隊員がじっと俺を見つめる。
「ご存知ありませんか？この痕」
翔くんの腕を付けられた機械を避けるように俺の方に傾ける。
綺麗な白い肌には小さな痕が沢山ある。きっと医療知識がない俺が察するに注射痕なのだろう。
翔くんが季節を問わず厚着をする理由が今になって漸く分かった気がした。
そして、それが分かったのと同時に翔くんの事を心配そうに見つめる救急隊員に違和感を覚えた。
「なんで？翔くんのこと」
「櫻井さん、以前搬送した事があるんです。あの時はまだ中学生でした。小さな身体がこれ以上無いくらい震えていて、それなのに通いつけの病院の名前を必死に言うんです」
どれもこれも初めて聞く話。今までずっと翔くんの傍に居たはずなのに俺は何にも知らなかったんだ。
『櫻井さ、この前の金曜何してた？どっか行くって言ってたか？』
『なんだそれ。この前の金曜……確かにいつもより帰りは遅かったけど、何も聞いてねぇよ』
『見たんだよ櫻井を』
『は？だから何？』
『病院で！病院で見たんだよ』
いや、少しの情報はあった。でも俺は真実を知る事が怖くて目を背けたんだ。
「翔くんは助かりますか？」
「絶対助かる、とは言い切れません。でも櫻井さんは強い。それに大野さんが傍に居てあげて下さい」
「はい…」
何も出来ない無力さを埋めるように翔くんの手を握る。冷たいその手が何かを求めるように動く。
もう俺が怖がるなんて有り得ない。俺よりずっと翔くんの方が怖い思いをして来たんだ。
だから、俺がずっと傍にいる。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
