148 零れ落ちた涙。 ページ46
side.N
「ずっとこんな日々が続けばいいのになぁ」
小さな小さな声だった。
でも俺にはハッキリと確実に聞こえた。そしておじさんにも聞こえたようだった。
気付けば翔ちゃんを見つめる視線が自然とおじさんと重なり合っていたのだ。
そりゃあそうか。最初からどれだけ俺が必死に考えてもこの人に適うわけはないんだ。
翔ちゃんにとって唯一無二の存在であり愛すべき人なのだから。幾ら俺たちの絆を語ったとしても大野さんに勝てる日はきっと来ない。
分かっていたはずなのに、それを突き付けられた気がして直ぐにその視線を逸らした。
一通り潤くんの手料理を堪能して恒例のプレゼントタイムに移行した。
相葉さんは相変わらずセンスの良いオシャレな洋服やら下着やらで潤くんはこれまたオシャレな帽子とスニーカー。
俺はサングラス。普段は殆ど掛けてないからサングラス姿が見たいなぁ、という俺の願い。
大野さんは、、正直意外だった。
「ほい翔くん。おめでと」
「ありがと智くん。ん、コレ時計？」
あまーい空気を全身で感じながら俺は翔ちゃんが発した言葉に耳を疑った。
「そう。どうかな？翔くんオシャレだから気に入って貰えるか不安だったんだけど…」
「まさか！すっごい嬉しい。ただ智くんが腕時計をプレゼントしてくれるのが意外でさ」
「まぁね」
やはり翔ちゃんも俺と同じように不思議に思ったようだ。
おじさんは理由こそ明言はしなかったけどその事に関して首を突っ込む人は誰も居なかった。
そして俺は軽く潤くんに合図を送ると翔ちゃんのテーブルの前に手紙を置いた。俺に続いて相葉さんと潤くんと大野さんも横に並べた。
唐突の出来事に翔ちゃんは最初こそ首を傾げていたが直ぐに「ありがとう」と笑ってくれた。
「翔ちゃん、読んでよ」
「えー？ココで？何か恥ずかしいんだけど」
「いいじゃんいいじゃん！」
相葉さんが何度か手紙を読むように諭せばあっさり折れた翔ちゃんは右端にあった潤くんの手紙を手に取った。
俺は手紙を読み始めた翔ちゃんを見つめていた。翔ちゃんの表情は面白い位にコロコロと変化した。
最初こそ明るかったものの次第にその目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
さすがは潤くん。最初から泣かしてくれるなぁ。
本気で書いてくれと言ったから真面目な潤くんの事だから頑張ってくれるだろうとは思っていたけど、この様子だと想像以上だな。
零れ落ちた涙に俺は潤くんと目を見合わせた。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
