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side.Kiuchi
「翔くんにそんな…ことが」
思い詰めたように顔を手で覆う大野くんはその一言を言ったきり言葉を発しない。
きっと今頃、頭の中は大混乱だろう。
俊くんによれば、翔くんは病気の事も園の事も何も話していなかったと言う。
言えない気持ちも充分分かるけど、私は大野くんが最低な人には見えない。寧ろ、優しくて温かい人だと思う。
「それで…翔くんは？今は俺と一緒に暮らしてますけど、ひまわり園に居た事なんて一度も聞いた事ないんです」
「退院してから直ぐに新しく翔くんを引き受けてくれる人を探したの」
「え？」
「このまま園に居たら翔くんは俊くんを忘れる事はずっと出来ない…だったら翔くんをずっと愛してくれる人の元へ行くべきだと思った」
だから退院してから園に戻った私は資料を漁り、翔くんを引き取ってくれそうな優しい人を探した。
あの時はこの判断が正しいと思い込むしかなかった。それしか、私が助かる道はなかった。
「私…最低でしょ？翔くんの事より、私が翔くんが傷付いた顔を見るのが怖くて遠ざけたの」
「それは…」
今の大野くんに何か言葉を求めている訳ではなかった。ただ、私の全てを知って欲しくて。
自ら翔くんを遠ざけてしまったこと。それが翔くんにとってはどれだけ辛いことか、もう少し考えれば分かるはずだったのに。
「真央先生は悪くありません。翔くんは例え辛いと思ったとしても、真央先生の事を最低だと思った日は一度もないと思います。翔くんはそういう人です。先生もよく知ってるでしょ？」
ふにゃっとした柔らかい笑みを浮かべて笑う大野くんを見たら翔くんが好きになってしまった理由が分かった気がした。
そして、大野くんならきっと大丈夫だ。
「今の御両親に会ったことはある？」
「いえ、一度もないんです。一緒に暮らす時も反対はされなかったみたいで…」
「怪しいと思った？大丈夫よ。今の翔くんの父親は私の弟なの」
そう言えば漫画のように目を見開くもんだから、つい笑ってしまう。
「弟夫婦は中々子供に恵まれなくてね…弟の所なら安心だと思ったから私が提案したのよ。だから割と自由っていうか私に似てる所もあるしね」
「なるほど、それで一緒に暮らす事もあっさりと」
「まぁね」
そうだったのか、と笑って頭を掻く大野くんの苦悩に気付いてあげる事が出来なかった。
一番近くに居たはずなのに。
これじゃ翔くんに怒られちゃうな。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
