138 内緒のままで。 ページ23
side.S
全て感じていた。
ニノが怒りというか悲しそうな念を込めて俺の事を見ている事も、
潤が泣きそうな顔をしながら智くん、雅紀、ニノ、そして俺を見ている事も、
智くんが分かっているとはいえ俯きがちに俺から視線を逸らした事も、
そんな智くんを見た雅紀が悔しそうに自分の太股を殴った事も、
俺は全て分かっていた。
その後は雅紀のお陰もあって、それに皆んないい大人だから気まずい空気にはならなかった。
ただ智くん以外の三人はずっと俺と智くんの動作を気にしていた。常に気が張ってるというのはこういう事なんだって思うくらいに。
「じゃあ、おやすみ〜」
「明日っていうか今日だけど、九時ぐらいでいいよね？」
「いいんじゃない？お願いですから潤くん明日はちゃんと起きて下さいよ」
「っ…わかってるよ」
ニノが朝の弱い潤に声を掛けて五人それぞれに自室に戻る。
夜中の二時過ぎに部屋に戻ってベットに入るのは年に数回の出来事で。毎年恒例の年越しもその内の一つだ。
五人の生活。
少しは慣れたものなのかもしれない。誰にも迷惑や心配を掛けたくなくて、突き放すように冷たい態度を取っても誰も文句の一つも言わなくて。
離れて欲しいのに『ずっと傍に居るから』とそう言って優しく抱き締めてくれた。
それが嬉しくて、頼っちゃいけないのにまたその優しさに触れたくなるんだ。
＿＿コンコン
「翔くん、いい？」
「うん」
ノックの後に智くんが静かに扉を開けて中に入って来て床に座り込む。
その表情には少し迷いがあるように見えた。
「ごめんね智くん。勝手に決めちゃって」
「ううん…でも俺はまだ納得して、ないから…翔くんの気持ちも分かるけどアイツらは絶対そんなの許さないと思うよ」
ごめん、智くん。
許す許さないの問題じゃないんだ。
「やっぱりさ、いつまでも皆んなに甘えてちゃ駄目なんだよ。俺は強くなったよ。智くん…」
「そんな事…そんな事言うなよ」
首を振りながら縋るような目で俺を見つめる智くんはあの時に戻ったみたいだ。
俺が貴方を苦しめてしまったあの時に。
「もう俺は…大丈夫だから」
「だからって俺も…俺も置いてくのかよ」
当たり前だ。だって貴方を解放したいのだから。だからこそ俺は嘘をつく。
「まだ内緒にしてて欲しい。３月までには俺からちゃんと言うから。今はまだこのままで」
俺の願いに小さく頷いた智くんはやはり納得してないようで、俺の顔を見ようとしなかった。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
